【本の感想】陳舜臣『枯草の根』

陳舜臣『枯草の根』

1961年 第7回 江戸川乱歩受賞作。

陳舜臣『枯草の根』は、著者のデビュー作にして、江戸川乱歩 選考委員が絶賛した(と言われる)作品で、探偵 陶展文シリーズの第1弾にあたります。

金融業を営む銘除義の絞殺死体が、自室で発見されました。犯行のあった夜、最後に彼の部屋を訪れたものは誰なのか。銘除義が住むアパートの管理人や、住人の証言から、事件は不可能犯罪の様相を帯びてきます。遅々として進まない警察の捜査。場末の中華料理屋の店主 陶展文は、友の死の真相を探るべく、新聞記者 小島和彦の協力を得て、独自に調査を開始するのでした・・・

本作品は、日本で暮らす華僑の生活や習俗が、生き生きと描かれており興味深く読み進めることができます。おまけに、ミステリとしての完成度は高さは、審査員の折り紙付き。陶展文が解決に至るための伏線の張り方は、実に巧みなのです。

本作品では、被害者の性癖をもとに、真犯人のアリバイを崩し、全ての謎を解き明かす陶展文の観察眼が見所となっています。どうやら陶展文は、最初から全てお見通し、余計なことは言いません、という超然としたタイプの探偵のようですね。

本作品では、事件の真相が華僑という生き方そのものに関わっています。スケールの大きさを感じるし、ラストは余韻を残す締めくくり方です。決して評価が高くない江戸川乱歩受賞作の中では必読の書でしょう。

江戸川乱歩賞、直木賞『青玉獅子香炉』、日本推理作家協会賞受『玉嶺よふたたび』『孔雀の道』(2作品同時受賞)と、文学賞を手にしてきた著者が、やっぱり凄いのかな。

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