【本の感想】アンソニー・ハイド『レッド・フォックス消ゆ』

アンソニー・ハイド『レッド・フォックス消ゆ』(原著)

1985年 週刊文春ミステリーベスト10 海外部門 第3位。

元ジャーナリストで、ロシア研究家のロバート・ソーンは、ある日、20年前に別れた恋人メイ・ブライトマンから緊急の電話を受けます。メイの父親で、ロシアとの毛皮貿易によりひと財産築き上げたハリー・ブライトマンが失踪したというのです。困惑するロバートでしたが、メイに懇願され、ハリーの行方を捜すことにします。

当初、単なる失踪かと思われたのですが、ロバートは、何者かがハリーを付狙っている痕跡に気付きます。意を決し、ハリーの過去に遡って捜査を続けるロバート。彼の前に多くの謎が立ちはだかり、徐々に混迷を深めていきます。やがて、ロバートは、ハリーが自殺したという報を受けるのでした・・・

アンソニー・ハイド(Anthony Hyde)『レッド・フォックス消ゆ』(The Red Fox)(1985年)は、一介の元ジャーナリストが、ロシアの暗部に切り込んでいくというエスピオナージです。

その道のプロではない主人公が、アメリカ、フランス、ロシアと舞台を変えながら、捜査行を繰り広げます。シロウトが、ロシアの情報機関を敵に回しての立ち振る舞いは、さすがに現実感を欠いているでしょう。主人公の生命を賭してまでの蛮勇も、その動機についての説得力がイマイチです。冗長とも思える情景描写が続くと思えば、実にあっさり場面展開してしまうのも難。かなり荒削りなストーリーという印象です。ギリギリのところで、無理矢理感を回避しているようにも思えます。

本作品は、ロシア革命の”あの伝説”に材をとっています。最後の最後で、本作品の深みのある面白さに気付くのですが、途中まではかなり退屈します。まぁ、エスピオナージは大体がそういうものなんですが。

タイトルの”赤い狐”は、化かし合いを意味しているのでしょうね。これは、適切ではあると思います。

(注)読了したのは文春文庫の翻訳版レッド・フォックス消ゆで、書影は原著のものを載せています。