【本の感想】稲垣栄洋『生き物の死にざま』

稲垣栄洋『生き物の死にざま』

自分もこの年になると、男の生き様よりも、死に様の方が気になります。晩節を汚すことなきようと思いつつも、生来の鈍感さが災いすることが目に見えているのです。ところで、そもそも死に様って何よ?、ということで、生き物の命の散り際を見てみましょう。

稲垣栄洋『生き物の死にざま』は、生き物の死にゆく姿を生物学的に解説したエッセイです。

身近なのから初めて名を聞くものまで、29種の生き物の最期を、著者が詩的に謳いあげています。生き物が命をつなぐという一点において、進化を重ねているのだと再認識しました。本書は、トリビア感が満載で知識欲を搔き立ててくれます。それぞれの生き物たちへ向けた著者の結びの言葉が、切ないほどの感動を呼び起こします。

例えば「子に身を捧ぐ障害」では、母親としての死にざまがつづられています。

昆虫の仲間で珍しい子育てをするハサミムシは、産んだ卵にカビが生えないように丁寧に舐めたりと、飲まず食わずで世話をするのです。その間四十日以上。そして、我が子が誕生したとき、母親は自らの体を餌として差し出します。

無償の愛、極まれりですね。そして著者の締めくくりの文章は、まさにポエムです。

子どもたちが母親を食べ尽くした頃、季節は春を迎える。そして、立派に成長した子どもたちは石の下から這い出て、それぞれの道へと進んでいくのである。
石の下には母親の亡骸を残して。

その他、”サケは、繁殖行動が終わると死のカウントダウンが始まる”、”メスの蚊は、卵の栄養分をとるため危険を冒す”、”カゲロウは、餌を食べて自ら生きるより、子孫を残す方が大切”、”カマキリは、交尾をしている最中でもオスの体を貪る”、”チョウチンアンコウのオスは、受精が終わるとメスの体と一体化する”、”卵を産む能力が低下した女王アリは、働きアリに容赦なく捨てられる”、”ハダカデバネズミは、老化という仕組みをなくしてしまった”・・・

など、生き物たちの最期は、壮絶でドラマに満ち溢れていることが良く分かります。子をなし次への世代につなぐ事が、本来の生き物の使命なのであれば、人間が一番それを蔑ろにしているのかもしれませんね。

本書に取り上げられている生き物は、以下の通りです。

セミ/ハサミムシ/サケ/アカイエカ/カゲロウ/カマキリ/アンテキヌス/チョウチンアンコウ/タコ/マンボウ/クラゲ/ウミガメ/イエティクラブ/マリンスノー/アリ/シロアリ/兵隊アブラムシ/ワタアブラムシ/ハダカデバネズミ/ミツバチ/ヒキガエル/ミノムシ(オオミノガ)/ジョロウグモ/シマウマとライオン/ニワトリ/ネズミ/イヌ/ニホンオオカミ/ゾウ

姉妹編『生き物の死にざま はかない命の物語』は、どんなドラマを見せてくれるでしょうか。

さて、生き物の最期については、猫は森に入って人知れず死んでいくとか、鴉は自然死するとパッ消滅するとか(矢追純一説?)、都市伝説を耳にします。自分は、というと宝のありかを指し示す謎の言葉を最期に残しましょうか(お宝は本しかないんですけど)。