【本の感想】菊地秀行『魔界都市ブルース (妖花の章)』

菊地秀行『魔界都市ブルース (妖花の章)』

自分には、著作の多さゆえに、読む気が失せてしまった作家さんがいます。

その一人が菊地秀行。夢枕獏と双璧をなす日本伝奇小説界の第一人者(かな)です。著作数は、400を超えているとか。

伝奇小説自体は、そもそもこの歳になると触手が動かないのですが、何から手を付けて良いかが分からないというのが正直なところです(調べれば分かるのだろけれど)。

食わず嫌いはいけません、ということで『魔界都市ブルース (妖花の章)』を手に取ってみました。

本作品は、マン・サーチャー・シリーズの第1弾で、人捜しを生業とする秋せつらが主役の連作短編集です。舞台は、大地震(デビル・クエイク)によって崩壊した近未来の新宿。魑魅魍魎が跋扈し、暴力による支配が常態化する孤絶したこの街で、秋せつらが悪党どもをねじ伏せていく、というお話しです。

秋せつらは、謎の殺人技を駆使する美青年。悪には非情を持って敢然と立ち向かい、善には蕩けるような慈しみを見せます。エロ・グロな描写といい、孤高の主人公の哀愁漂うラストといい、伝奇ものの王道フォーマットです。

大地震に見舞われた無法都市といえば、永井豪『バイオレンス・ジャック』を連想するし、原哲夫『北斗の拳』の世紀末伝説的な味付けもあるため、今読むと新味には乏しく感じます。

しかし、アクションシーンの迫力は、なかなかのものでスピード感たっぷりです。サクサクと読み進めることができるでしょう。本作品の秋せつらは、ストイックで、他を寄せ付けない無敵ぶりですが(秋せつらのピンチらしいピンチは、「影盗人」ぐらい)、さてさて今後はどのような展開になるのでしょう。シリーズの導入としては上々です。

とは言うものの、これからシリーズを読み進めていくには、自分はちょっと年齢が行き過ぎたようであるなぁ・・・。平井和正のウルフガイシリーズを、エロい、エロいと言いながら、こっそり読んでいた少年の頃を思い出しました。

収録作品は、以下の通りです。

自身の肉を喰わせて男を虜にする美女「人形使い」、魔都新宿に隠れた歌手の哀しい末路「さらば歌姫」、女の失踪の謎にせまる「仮面の女」、富豪に囚われた女の奪還「L伯爵の舞踏会」、影を盗み思うがかままに人を操る男「影盗人」