【本の感想】B.M.ギル『十二人目の陪審員 』
1984年 英国推理作家協会 ゴールド・ダガ―賞受賞作。
B.M.ギル(B.M.Gill)『十二人目の陪審員 』(Twelfth Juror)は、タイトルが表す通り法廷ステリです。
日本に裁判員制度が施行される前(2009年以前)は、古くに陪審員制度はあったにせよ、どうもピンとこないタイプのミステリでした。ヘンリー・フォンダが出演する『十二人の怒れる男』もスリリングな内容ですが、遠い国のお話としか思えませんでした。日本の法廷ミステリは、弁護士 V.S. 検事が基本でしたから。
裁判員制度が施行されて以降、裁判員(陪審員)が裁判の帰趨を左右するミステリは、すっかりお馴染みです。むしろ、弁護士、検事に、裁判員の意思が複雑に絡み合うという点で、よりドラマチックな盛り上がりを見せてくれるようになりました。
本作品では、TVの名物キャスター エドワード・カーンが、妻ジョスリンを殺害した容疑で裁判にかけられています。ジョスリンは、カーンが売れない頃を支えた糟糠の妻。有名になってからのカーンは、放蕩三昧の生活を続け、女優の愛人を作って中絶までさせていたのです。次々に、飛び出す数々の不利な状況証拠、そしてカーンに対するネガティブな証言。カーンは、犯行を強く否定するものの、何故か証言を一切拒否します。
12人の陪審員は、年齢、性別も職業も様々。有名人カーンへ思うところも人それぞれです。残虐な殺人を示唆する証拠品を見せられた陪審員たち。討論の場にあっても、カーンの有罪の方向は揺るぎません。
本作品では、陪審員それぞれの個性が剥き出しになっていく様に、見所があります。陪審員の一人ロバート・クインは、有罪へ方向付けようとするオピニオンリーダー トマス・リアリに反旗を翻します。クインとリアリはちょっとした因縁がありました。そして、近頃、溜まり場となっているクインの家に偶然転がり込んできたのは、カーンの娘フランシスだったのです。クインは、情緒不安定に陥っているフランシスのため、カーンの無罪を勝ち取ろうと、他の陪審員の懐柔作戦に打って出ます・・・
弁護士 V.S. 検事の法廷論争と並行して行われるのは、クイン V.S. リアリの大激論。信念なき陪審は揺れ動き、混沌とした様相を呈します。果ては、クインに女心をくすぐられてしまう女性まで・・・。『十二の怒れる男』のように、陪審員制度の問題点も見え隠れします。ひょっとして映画のオマージュ?
陪審員たちの結論は?そして、裁判の判決は?
事件は、ジョスリンの意外な一面が明らかとなり幕を閉じます。そして、フランシスは・・・。後味悪し・・・。そして、タイトルの”十二人目”は、何を意味するのだろう(これは分からんなぁ)。
1957年 公開 シドニー・ルメット監督 ヘンリー・フォンダ 出演 映画『十二人の怒れる男』はこちら。