【本の感想】浦賀和宏『記憶の果て』

浦賀和宏『記憶の果て』

1998年 第5回 メフィスト賞受賞作。

たまに読んでみるメフィスト賞受賞作。何でもアリアリでゆえに、好き嫌いが分かれてしまうようです。受賞後、売れっ子になった作家さんは、数多いのですがね。自分は、他のミステリ文学賞よりも気に入った作品が多いように思います。

浦賀和宏『記憶の果て』も、メフィスト賞受賞作品です。

父親が自殺した日、安藤直樹は、父親のパソコンの中にいる裕子と出会います。裕子は、まるで意識があるように、直樹と会話ができるのです。裕子の正体を探るうちに、直樹は、18年前に自殺した姉の存在に辿り着きます。失恋直後に父親の死と直面した直樹は、徐々に、裕子に思いを寄せるようになるのですが・・・

卒業を間近に控えた高校生が主役で、青春小説の趣ありですが、近親相姦というタブーを扱っているために、全編を通して暗いトーンが印象的な作品です。

このタブーが、またドロドロで、いきなりぶち込んでくるから、読んでいて気分がよろしくありません。そもそも直樹が、ネガティブ過ぎて、鬱陶しいのです。直樹は、当時の著者と近い年頃なので、著者の精神性を反映しているのかと、穿った見方をしてしまいます。

本作品は、提示されるいくつかの謎は未解決のまま、堂々と!ラストを迎えます。・・・うぅ・・・メフィスト賞恐るべし。

どうやら、「笑わない名探偵」安藤直樹シリーズということで、後続の作品で、解決がみられているようです。デビュー作で、戦略的にシリーズ化を狙っているのであれば、図太いですね(とすると、著者は、直樹とは違うキャラなのかも)。

自分は、直樹のキャラクターが好きにはなれないので、今は、読み続ける気持ちはありません。本作品で、回収できなかった真相については、どこかのサイトを覗いて満足することになるでしょう。

ストレスの溜まる作品だったなぁ ・・・

(注)浦賀和宏氏は、本年、2020年2月25日に物故されたとのことです。41歳と、まだお若かかったのですね。

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