【本の感想】三好徹『風塵地帯』

三好徹『風塵地帯』

1967年 第20回 日本推理作家協会賞受賞作。

三好徹『風塵地帯』は、インドネシアを舞台にした謀略小説です。スカルノ時代のごたごたを背景に、巻き込まれ型のサスペンスが展開されます。

彼の地の人熱れや熱気を感じるほど、まさに活写という言葉に相応しいのですが、著者は、当時のインドネシアに足を踏み入れたことがなかったようです。そういう意味では、作家の想像力の逞しさを堪能できる作品なのです。

特派員としてジャカルタに赴任した”私” 香月は、現地で旧知のカメラマン鳩谷と再会します。すっかり羽振りのよい鳩谷に、困惑する香月。出あった頃のうらぶれた様子を、今や窺い知ることができません。

やがて大使館のもとに、鳩谷が殺害されたとの報が入ります。殺害現場に向かう、香月ら報道機関の一同。しかし、現場は軍関係者によってシャットアウトされています。鳩谷に続き、香月の助手の死体が発見されると、疑惑の目は香月へ。香月は、殺人容疑で拘留されてしまうのでした ・・・

情景描写は臨場感たっぷりなのですが、それに比べると、ストーリーはそれほど興味を引きません。巻き込まれ型のサスペンスにしては、じれったさが足りないのです。先の展開が、易々と読めてしまう点に、難があるのかもしれません。

香月の想い人である節子が、インドネシア政府の上層部の妻となっている設定ですが、この横糸が上手く絡んできません。不発といった方が良いでしょうか。ラストは、肩透かしを食った感が強くあります。

本作品は、謀略小説としてよりも、著者の筆力の高さを鑑賞すべきなんだろうなぁ・・・