【本の感想】マイクル・スワンウィック『グリュフォンの卵』

マイクル・スワンウィック『グリュフォンの卵』

日本では知名度が低いマイケル・スワンウィック(Michael Swanwick)。長編『大塩の道』(ファンタジーっぽい)と、ウィリアム・ギブスンとの共著『ドッグファイト』(サーバー・パンクの大傑作!)、そして雑誌にいくつかの短編が翻訳掲載されたくらいです。

『グリュフォンの卵』は、著者が1999年、2000年、2002年から2004年までに、ヒューゴー賞を受賞した6作品を含む、全10作品が収められた短編集です。とっつき難い作品ばかりですが、キラリと光アイディアが散見されます。時間SF、ファースト・コンタクトと、テーマのバリエーションは豊かです。

ヒューゴー賞受賞作を古い順から紹介しましょう(本作品集の並び順とは異なります)。

■死者の声(1999年)
木星の衛星イオへの着陸に失敗したマーサ。マーサは、死亡したバートンの亡骸を引きずりながら歩を進めます。やがて、バートンの声が聞こえ始めたマーサは、精神に異常を疑いだして ・・・

箴言を並べ立てて、マーサに語りかけていたものとは何か。スカっとはいかないものの、ロマンあふるる作品です。どこかで読んだような気にさせるプロットではありますか。

■ティラノサウルスのスケルツォ(2000年)
元古生物学者の”わたし”は、ドシェルヴィーユ家へ、白亜紀時代での宴を催しを差配する役目。新人のホーキンズがメリジューヌ・ドシェルヴィーユに言い寄られているのを知り、”わたし”が楽しみを横取りしようと画策します。ホーキンズは、後少しでティラノサウルスに喰われる運命なのですから ・・・

タイム・ファネンルなるもので、過去を行き来できる時代の一コマを描いた時間SFです。苦味の効いたリドル・ストーリーとなっています。自分は、タイム・パラドックスに言及されると、混乱してくるのですよ。

■犬はワンワンと言った(2002年)
犬のプラス卿(サー・プラス)は、ダージャと共にバッキンガム宮殿へ。金をせしめようと、身分を偽り女王陛下への謁見を申し入れます。しかし、サープラスらは捕らわれの身に。彼らの”モデム”を取り上げられてしまうのでした。

このレトロフューチャーの味わいは、スチーム・パンクと言って良いでしょう。今となっては、モデムという語が、古くて新しい感覚を呼び覚まします。

■スロー・ライフ(2003年)
タイタンで調査作業を続ける、リジィ、アラン、コエンスロの三名。新しい発見の連続に沸き立つ彼らでしたが、リジィは夢の中で知的生命体がコンタクトしてきているのに気付きます。しかし、同僚らはリジィの精神状態に疑いをもって ・・・

本作品は、ファーストコンタクトものです。異星の住人が観念とか概念のようなものの総体として表現されると、スッキリしません。

■時の軍勢(2004年)
エリーは、何もしないで8時間いるだけという、奇妙奇天烈な仕事をしています。デスクに座り物置のドアを見て、誰かがドアから出てきたらボタンを押すのです。やがて、エリーは、雇い主のミスター・ターブレッコの行動に興味を持ち始めるのでした。そして禁を犯し ・・・

出だしは単なるタイム・トレラベルものの雰囲気ですが、クライマックスの大風呂敷の畳み方は、凝っています。分かりづらいのが難でしょうか。

『ドッグファイト』の電脳感を期待すると、ハズレてしまう作品集でした。

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