【本の感想】マイクル・スワンウィック『大潮の道』

マイクル・スワンウィック『大潮の道』

1992年 ネビュラ賞 長編小説部門 受賞作。

マイケル・スワンウィック(Michael Swanwick)『大潮の道』(Stations of the Tide)は、大洪水が定期的に起こる惑星を舞台に繰り広げられる、テクノロジーと魔法の物語です。

細かな設定が語られないため、雰囲気で理解するしかないという如何にもな90年代SFです。翻訳短編集『グリュフォンの卵』を読むと、著者は、バリエーション豊かなSFをものする作家であることが分かります(リンクをクリックいただければ感想のページに移動します)。本作品は、とっつき難くく、読み進めるのに時間を要しますが、読了してみればサプライズも随所にあって満足度は高いでしょう。

星間政府のテクノロジー移動局の役人が、上司コーダの指示により、植民惑星ミランダに到着します。アルデバラン・グレゴリアンが、輸入禁止テクノロジーを所有している疑いがあることから、真偽を確かめ、事実ならば戻すよう説得するのが役人の役目です。

きしくもミランダは、安息年を迎え大潮によって陸地の大半が飲み込まれてしまう時期。役人は不承不承、グレゴリアンの行方を捜査し始めます。相棒は、現地のエミリー・チュー連絡警部補です。

本作品の主人公は、”役人”であり名前はありません。役人は、この隙にポジションを奪われるのでは懸念しつつも、上司の無茶ぶりに唯々諾々として従います。携えているのは、彼とコミュニケーションを取りデータの解析をする”書類鞄”(奪われて自立歩行してボスの元へ帰ってくる忠勤ぶり)。政府職員のパロディのような設定が気に入りました。

本作品を読んでいると、リモートで人の代わりに動作する人工物<代体>、電話による情報伝達がバーチャルに映像をも取り込む<吸収>、といったテクノロジーと、近世ヨーロッパとが混淆するイメージが湧きます(あくまで雰囲気ですが)。

役人が、グレゴリアンの行方を探索するうちに迷い込む、魔法使いの住む世界。官能的で幻想的な出来事が、役人を待ち受けます。テクノロジーを抑え付けた植民惑星で、グレゴリアンは何を目論んでいるのでしょうか・・・

ラストに向けては、役人の手によって、様々な欺瞞や裏切りが明らかになります。ここは、おっ!と驚きの連続です。そして、ついにグレゴリアンを対面した役人は・・・。ここで、締めくくり・・・と思いきや、何と最後の1ページで本作品の様相をガラリと変えてしまうのです。素晴らしい!

『大潮の道』という日本語タイトルが地味でいけないのかなぁ。もっと読まれて然るべき作品なんだけど・・・

  • その他のマイケル・スワンウィック 作品の感想は関連記事をご覧下さい。