明るくも、楽しくも、元気良くもない女性が主役です。一言で表すと鬱陶しい。明日への一歩手前で、うじうじと硬直している状態です。好き嫌いは別として、読者を鬱陶しくさせるのは、著者の筆力の高さなのでしょう。
【本の感想】山本文緒『恋愛中毒』
1998年 第20回 吉川英治文学受賞作。
山本文緒『恋愛中毒』は、恋愛にハマってしまった妙齢の女性の姿を描いた作品です。
タイトルからは、次々と男性遍歴を重ねるような印象を受けますが、さにあらず。たった一人の男に、どっぷりと浸かった女性が主人公です。
水無月圭子は、翻訳家志望の40代バツイチのシングル。ある日、バイト先の弁当屋で、人気作家 創路功二郎に声を掛けられます。功二郎は、とろけるような優しさと、突き放すような冷たさを併せ持つ男。自己顕示欲が強く自己中心的ではあるものの、功二郎の立ち振る舞いや言動は、見る人によっては愛らしく映るのでしょう。圭子は、功二郎に出会った時から、魅入られてしまったようです。
オトナの恋愛は、若い頃のそれとは違って、どこにスイッチがあるのか分かり難くはあります。功二郎は、本妻の他に、愛人がおり、自身の事務所のタレント、スタッフとも関係があるという非常識かつ傍若無人な男です。ただ、圭子や愛人たちとの関係を見ていくうちに、功二郎が、女性の恋愛スイッチを探り当ててしまう男だと、何となく分かってきます。女性を夢中にする男が、人格者ではない(むしろダメ人間か)点で、本作品にはリアルさがあります。著者は、功二郎というキャラクターに思い入れがあるように思えます。
圭子は、功二郎の勧めで事務所のスタッフとして働き始めます。体を許したものの、一定の距離間を保ってはいたのですが、妻や愛人たちの存在をよく知るにつれて、圭子の感情は沸騰していきます。圭子と白金台の愛人 中野美代子とのバトルは見ものです。秀逸なのは、妻 のばらの、天然な悪意に対峙する圭子の姿ですね。圭子の、病んでいると言っても過言ではない恋愛の底辺感が、不快ぎりぎりの土俵際まで迫ってきます。
功二郎に見切りをつけ、愛人たちそれぞれが新しい道を歩み始める中、圭子は功二郎に心を囚われたままです。しかし、やがて圭子は、功二郎から不要とされつつあるのに気付きます。功二郎の娘 奈々に慕われている圭子は、功二郎を繋ぎ止めておくため、ついに罪を犯すのでした ・・・
本作品は、冒頭から、過去に場面転換し、ラストでまた現在に戻るわけですが、ここに至って恋愛中毒の症状の重さが分かります。圭子の闇と対比するような、功二郎の開けっ広げさには、いつしか好感を持ってしまいました。もっとも、女性読者は、違った感想を持つのかもしれませんね。
本作品は、場面転換が多く、てんこ盛り感が否めません。帯にあるような、”衝撃”といった煽り文が適切かというと、どうかなぁ・・・
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