【本の感想】ジェイ・マキナニー『ランサム』

ジェイ・マキナニー『ランサム』(原著)

ジェイ・マキナニー(Jay McInerney)『ランサム』(Ransom)は、『ブライト・ライツ、ビッグ・シティ』で一世を風靡した著者(今や忘れられつつある作家だけど)の長編第2作にあたります。

『ブライト・ライツ、ビッグ・シティ』や『モデル・ビヘイヴィア 』のような、都会的でちょっとスカした雰囲気を期待すると外してしまいます。只今迷走中!な人物を主役に据えているのは同じですが、おしゃれテイストの全くない、暗く鬱屈した作品なのです。

舞台は、1977年の京都。

クリストファー・ランサムは英会話スクールの講師をしながら、空手を学んでいます。ランサムは、裕福な家庭に育ちながら父との折り合いが悪く、アジアを放浪した挙句に日本に流れ着いたのでした。放の途中、友とそして恋人を失うという、辛い過去を引きずっている、という設定です。

本作品は、そんなガイジン ランサムの日々が描かれていきます。

著者の日本滞在(二年間!)の経験をもとにしているだけあって、ここに描かれている日本には違和感が少ないですね。むしろ、本音と建前のような日本人の気質を、上手く捉えています。外国人から見た日本は、露悪的に特異な部分が強調されがちだけれど、本作品の淡々とした描写には好感がもてます。

ランサムは、放蕩にも似た流浪の生活に見切りをつけ、精神生活の向上を目指して、空手の道場の門を叩きました。

ぼくはなにも書いていない一枚の板になりたいのかもしれない。すべてを赦し、すべてを忘れる一枚の板。

自分の教えられてきた概念的な枠組みの外にあるなにかと、親しく触れ合いたいと願っていた。世界の表層部分を突き破り、世界の核心を見つめたいと思っていた。厳格な規律が自分を浄化させ、変身させてくれる、そう信じていた。

上達を目指し日々精進を続けるランサムでしたが、尊敬する師範の醜態や陰湿な部分を目の当たりにし、心が揺れ動いていきます。

ヤクザの親分に言い寄られ助けを求めるマリリン、そしてランサムを憎み執拗に闘いを挑むドゥヴィトーが絡み合いながらストーリは進みます。自分は、なんとも激しい結末に、こんなのありか!仰天してしまったのですが、どうでしょう。ランサムを浄化させ、変身させてくれる唯一の道であったということなのかもしれませんね。衝撃的ではありますが、後味が悪いなぁ。

なお、本作品は、マキナニーの自伝的作品のようです。ランサムは、キース・リチャーズ似で、本作品には、ローリング・ストーンズの追っかけに間違えられるエピソードが挿入されています。なるほど、若い頃の著者もキース・リチャーズに似ていなくもないか。

(注)読了したのは新潮社の翻訳版『ランサム』で、 書影は原著のものを載せています 。

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