【本の感想】蘇部健一『六枚のとんかつ』
1997年 第3回 メフィスト賞受賞作。
出張のお供にと飛行場の本屋で手に取った蘇部健一『六枚のとんかつ』。最初の短編を立ち読みして、すぐに棚へ戻した記憶があります。
本作品は、熱烈なファンがいるものの、批判的な扱いが多いようですね。購入を躊躇ったのは、自分も、本作品を受け入れられない派だったのでしょう。「バカミス」を馬鹿しいミステリだと思っていたから、下らないという先入観があったのかもしれません。
文学賞受賞作を読破する試みを続けている自分としては、第3回メフィスト賞の受賞作を外すわけにはいきません。ということで、改めて本作品を読んでみました。
結論からいうと、ふん!と言って投げ出してしまうような作品ではありません。
確かに、連作短編のうちのいくつかは、「なんじゃこれ?」と項垂れてしまうのですが、本格ミステリの芳醇な香りを味わえる作品もあります(言い過ぎか)。好意的に見れば、「なんじゃこれ?」の中にも、敢えて着くずしたお洒落感覚があるようです(ああ、言い過ぎだ)。
『六枚のとんかつ』は、保険調査員 小野由一が、新進推理作家 古藤や、巨漢の後輩 早乙女の力を借りながら、様々な難事件に挑んでいくという全14話の連作短編集になっています。文庫はディレクターズ・カット版らしく、著者曰く、あまりにヒドイ作品は、差し替えし、改訂したようです。メフィスト賞受賞時のをまんま読みたければ単行本を、ということになります。
小野の扱う事件が、ほとんどアリバイ崩しや、密室トリックを暴くという本格指向のミステリです。中には読者への挑戦状が用意されていたりして。賛否が分かれてしまうのは、どうやら独特の捻り方にあるようです。野球で例えるならば、直球勝負にいかずにボール球、クセ球で三振を取る感覚でしょうか。ゆえに、たまにファーボールやデッドボールになってしまうのです。
本連作短編集は、お馬鹿な推理を展開し 何だかんだと事件を解決してしまう『33分探偵』(堂本剛 主演のテレビドラマね)のようなもの、往年の推理作家へのオマージュ(だけ)のようなもの、これは!と感嘆してしまうものをごった煮にしてあるようです。この作品はいいけど、これはイマイチという具合に読者によって意見が分かれるのではないでしょうか。バリエーションが広いとは言えるかもしれません(統一感がないともいえますか)。ただ、読みやすい分、頭の体操っぽいのが気になるところです。
自分は、『しおかぜ17号四十九分の壁』、『消えた黒いドレスの女』、『五枚のとんかつ』、『六枚のとんかつ』、『「ジョン・ディクスン・カーを読んだ男」を読んだ男』を楽しませてもらいました(あらすじは、ネタばれしそうなので書けません)。
「突拍子がないんでしょう」と構えて読んだせいか、意外に笑えなかったのが残念です。唯一、『音の気がかり』でトラックの”バックシマス”を”ガッツ石松”と勘違するくだりは、懐かしさでニンマリしてしまったな。