【本の感想】ジェイ・マキナニー『モデル・ビヘイヴィア 』

ジェイ・マキナニー『モデル・ビヘイビア』

80年代のサリンジャーと言われたわりに、『ブライト・ライツ、ビッグ・シティ』以降、パッとしなかったジェイ・マキナニー (Jay McInerney) 。バブルのアダ花のように、2作目からはほとんど話題にならなかったように思います。スカした感じが80年代ぽくって、ジェイ・マキナニーを読んでます!っていうのが気恥ずかしくはあったなぁ。

ジェイ・マキナニー『モデル・ビヘイヴィア 』(Model Behaviour)は、1998年の作品で、翻訳としては4作目にあたります。

ファッション誌のライター コナーは、モデルのフィルと同棲中。仕事がいまいちなら、フィルとの関係も怪しくなってきました。フィルが2、3日の撮影旅行にいったきり、帰ってこなくなってしまったのです。捨てられた? 不安にかられるコナーに、鬱気味の姉さんブルック、神経質な親友ジェレミーらの問題が追い打ちをかけて ・・・

本を読んで「わかる、わかるよ~その気持ち」と激しく感情移入したのは久々です。

不幸な生い立ちからコナーとの結婚を望むフィル。フィルに比べてパッとしないコナーは、ひとかどの男になるまでは、と、結婚に踏み切れません。美人の恋人がいるという誇らしさと、彼女のおかげて自分が認められているという忸怩たる思い。フィルを失ってから気づく、彼女の大切さとコナー自身の愚かさ。フィルがどれだけコナーを支えようとしてきたか、自分がどんなに至らなかったか、あらためて列挙して、こりゃダメじゃん!となるのです。

うろたえるコナーは、とってもナサケないんだけど、大方の男はこうだよなぁ・・・と感じ入ってしまいます。読んでいて嫌な気にならないのは、ナサケなさの中にジメジメしたものがないからでしょう。頭の中でフィルが戻ってくるシナリオを考えたりするのですが、現実離れした想像が笑いを誘ってしまいます。キュートという表現が正しいのかもしれませんね。蒲団に顔をうずめて泣きました・・・っていうのとは違います。ただ、コナーの32歳という年齢の設定は、もう少し若くてもいいような気がします。いい大人の歳だから。

ブルック、ジェレミー、パパ、ママら、登場人物もイカしています。エキセントリックで、コナーに劣らずキュートな人々なのです。ゲラゲラとはいかないまでも、クスクスぐらいいけるシーンが、いっぱい散りばめられています。

相変わらずスカした感じは漂っているとはいえ、『ブライト・ライツ、ビッグ・シティ』よりは傑作のように思います。

作品名は忘れてしまいましたが、デイヴィット・ハンドラーがホーギーシリーズ(ゴーストライターが事件を解決するミステリシリーズね)の中で、ジェイ・マキナニーを揶揄する表現を読んだことがあります。ハンドラーは、マキナニーがサリンジャーと評されているのが、気にくわなかったんだろうね。

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