【本の感想】ロバート・ラドラム『狂気のモザイク』

ロバート・ラドラム『狂気のモザイク』(原著)

1985年 週刊文春ミステリーベスト10 海外部門 第9位。

引退した秘密情報員マイケル・ハブロックは、旅先で死別した恋人ジェンナ・カラスと邂逅します。ジェンナはスパイとして、ハブロックの目の前で射殺されたはずでした。ジェンナを忘れられないハブロックは、逃げ出したジェンナを追いかけます。そんなハブロックの行動を察知したアメリカ上層部は、ハブロック排除を命じるのでした・・・

ロバート・ラドラム(Robert Ludlum)『狂気のモザイク』(The Parsifal Mozaic)(1982年)は、チェコ出身のスーパー秘密諜報員が、自身の追手を撃退しながら、恋人の行方を執拗に追い求めるうちに、隠された大いなる陰謀を探り当てるという展開のエスピオナージです。

各国の秘密諜報員に、この人アリ!と注目されるほどの有能なハブロックですが、随所でうっかりぽっかりミスを犯してしまいます。微に入り細を穿つごとくの慎重さを見せるかと思えば、あっと驚く間の抜けた行動を取ったりするのです。手に汗握る緊迫のシーンは満載ですが、そもそものピンチを招いたのはハブロック本人なので、有能さにはどうにも疑問符がつきます。

この長い長い物語の上巻は、ハブロックがジェンナに辿りつくまで。下巻は、そもそも二人を巻き込んだ陰謀に、ハブロックとジェンナが闘いを挑んでいく様が描かれます。

世界をひっくり返すほどの大風呂敷が広げられるのですが、やはりハブロックの有能さに疑いを残しているだけに、ページの進みがよろしくありません。各国の諜報合戦や、並行して語られる米国上層部の権力闘争は、他のエスピオナージでもお馴染みではあります。ただ、すべてを破壊し尽くす狂気の陰謀を、それなりにまとめあげているところは、一読の価値はあると思います。

黒幕は物語の早々に分かってしまい、興味の中心はどう風呂敷を畳むかになります。ラストに向かっては、ハブロックを取り巻く危機感が希薄で、じれったさを感じない分、淡々と幕引きまで進んでしまったようです。

謎解き要素はあるのですが、怪しいと思った登場人物は、なんとなく当たってしまうので意外性は少ないでしょう。満足感は、1,000頁を超す長編を読み切ったことぐらいかなぁ。

ロバート・ラドラムの作品であれば、『暗殺者』の方が断然良いですね。

(注)読了したのは新潮文庫の翻訳版『狂気のモザイク』で、 書影は原著のものを載せています。

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