【本の感想】積木鏡介『歪んだ創世記』
1998年 第6回 メフィスト賞受賞作。
目覚めた男には記憶がありませんでした。見知らぬ部屋、叩き壊されたドア、そして男の片手には斧。この世にいきなり誕生したかのごとき男は、手掛かりを求めて部屋の中を物色します。
そして男が発見したのは、ベッドに隠れていた女です。女も男と同様に記憶がありません。
周囲の状況から、男が女をこの部屋に追いつめ、危険に晒したかに見えます。しかし、部屋に飾られた写真は、男と女の親密な間柄を窺わせるのでした・・・
これが、積木鏡介『歪んだ創世記』の冒頭です。
起承転結の“結”から始まり、“起”へと巻き戻りながらストーリーは展開します。男と女が最初に見つけたのは、老夫婦と女性の惨殺死体。しかし、やがて死体は消失し、何事もなかったかのような姿で男と女の前に現れます。
除々に過去を手に入れていく男と女は、逆行する時間の中で翻弄されるまま、なす術がありません。
男に隠された陰惨な過去が、起こるべき惨劇を示唆します。確定した未来と、男と女の行動により、捩れていく現在。そして、時折挿入される、全てを知る何ものかのモノローグ(これ以上は、ネタバレになるので書けません・・・)。
絶海の孤島で、繰り広げられる奇妙奇天烈な物語・・・ なのですが、本作品を大胆な意欲作と見るか、奇を衒った一発芸と見るかで評価が異なるのではないでしょうか。
真犯人の正体をオチに持ってくると、途轍もない駄作になるのですが、途中でネタばらしをし、読み手がっかりをさせたところで、最後に一撃を見舞うというのが本作品のスタイル。ストーリーの後半は、ハチャメチャな様相を呈してくるので、収束の仕方に注目して読み進めることになってしまいます。
自分は、悪夢のような異様な世界観に飲み込まれつつも、破綻すれすれで、きっちりとオチを付けてくれるところが気に入っています。
メタ・フィクションを逆手にとったようなこの結末は、予想すらできませんでした。ここだけでも読む価値ありと思うのですが、どうでしょう。