【本の感想】フィル・ナイト『SHOE DOG (シュー ドッグ)』

フィル・ナイト『SHOE DOG (シュー ドッグ)』

2018年 ビジネス書大賞受賞作。
2018年 ビジネス書グランプリ 3位。

フィル・ナイト(Phil Kinight)『SHOE DOG 靴にすべてを。』(Shoe Dog)は、ナイキ創業者の手による、創業奮闘記です。

1962年、スタンフォード大学でMBAを取得した著者は、オニツカ(現アシックス)のシューズを米国で販売しようと企てます。パパから借金をし、実態のない会社ブルーリボンの代表として、単身日本に乗り込み、50ドルの前払い金で販売許諾を勝ち取ります。

今でいうところのスタートアップですが、コンプライアンスという語が存在しなかった(一般的ではなかった?)当時、著者はビッグマウスで世界を股に掛けるビジネスを立ち上げるのです。本書は、美しき起業家人生・・・ではなく、著者本人が意図してるかどうかは別として、1980年までの20年弱の、なんでもアリアリ、ハッタリ人生が語られます。勝てば官軍とはこのこと(あちらのスタートアップは、程度の差こそあれ胡散臭さは付きまといますね)。成功者だからこそ、あの頃はぶっちゃけヤバかったんだよと遠い目ができるのかもしれません。(恋人サラに振られた話はいる?)

最初の1,000ドルの注文から、自転車操業もかくや、とも言うべく事業を拡大し続ける著者。マネー、マネー、マネーで、おいおい!本当にシューズ愛があるのかい?と疑いたくなります。ナイキのマーク=スウォッシュ(Swoosh)決定の経緯も実にライトです。

ビジネスの波に乗りかけると、著者の前に敵が現れます。マルボロマン、キタミ、ライバル会社、そして離反したかつての仲間たち・・・ついには官僚まで。事業が大きくなればなるほど敵も強大になります。まるで少年ジャンプの格闘マンガ的パワーインフレ。著者は、運にも人にも恵まれピンチを凌いでいきます。

本書を読む限りにおいて、著者は鼻もちならないヤツのように見えます。上司としても父親としても、斯くあるべしとはなりません(事業失敗のリスクを考慮し、ちゃっかり自分だけは食い扶持を確保してるし)。ビジネスにおいて先見の明があったのか、たまたま時代がマッチしたのか、判然としないところもあります。ただ、著者のようなハートの強さがなければ、ビックビジネスを成し得ないのは良くわかりました。

はたして本書はビジネス書なのでしょうか。物語としては面白くはあるのですが。同じ経営奮闘記であっても、ピクサー創業者 エド・キャトルム『ピクサー流 創造するちから』とは随分違いますね。(リンクをクリックをいただけると感想のページへ移動します)。

本書では散々の言われようだったオニツカ、そして大きな支援の決断をした日商から、ナイキをどう見ていたかを読んでみたいですね。

単に生きるだけでなく、他人より充実した人生を送る手助けをするのだ。もしそれをビジネスと呼ぶならば、私をビジネスマンと呼んでくれて結構だ。ビジネスという言葉にも愛着が湧いてくるかもしれない 。

2007年は、著者の資産100億ドルで、毎年1億ドル寄付しているとのことです(2019年はその3倍強の資産のようで)。何だか鼻につく・・・