【本の感想】フレドリック・ブラウン『発狂した宇宙』

フレドリック・ブラウン『発狂した宇宙』

自分がパラレルワールドを知ったのは、筒井康隆作品でした。

この世界と幾つも並行に存在する似て非なる世界。ひょっとして、自分がイケメンだったり、大金持ちだったり、天才だったりする世界が、あるやもしれません。とってもロマンチックなので、自分が、SFではタイムトラベルに次いで、魅了されるテーマです (一緒に語られる作品もあるのですが) 。

筒井康隆は、フレドリック・ブラウン(Fredric Brown)『発狂した宇宙』(What Mad Universe)(1949年)を、解説において「多元宇宙SFの決定版である」と明言しています(多元宇宙は、すなわちパラレルワールドね)。

なるほど、パラレルワールドに宇宙冒険風味を加え、著者ならではのヒネリを効かせた本作品は、以降、このテーマを扱った作品のリファレンスとなっているのでしょう。何より、本作品が、有人宇宙飛行がまだまだ先の1949年に刊行されたのだから驚きです。

月へ向かったロケットが、地球へ舞い戻ってきて、SF雑誌編集者キース・ウィントンのもとに墜落してしまいました。直撃を受けた途端、閃光に包まれ気を失うウィントン。ウィントンが気が付くと、そこは異星人が闊歩する、似て非なる世界の光景が広がっています・・・

徐々に明らかになっていくパラレルワールドの姿。先の読めない展開に、ワクワクが募るでしょう。

ウィントンは、地球と交戦状態のアクトゥールス人と間違えられ、警察から追われる羽目になります。指令は「発見しだい射殺せよ」。

さすが、SFのみならず、ミステリを多数ものしてきた著者です。ここからは、ウィントンを待ち受けるピンチの連続を、適度な緊張感を保ちつつ描いていきます。

ウィントンは、命からがら、自宅のあるニューヨークへ逃れます。そこは、アクトゥールス人の攻撃から都市を守るため、夜間は濃霧管制が敷かれた街に変貌していました。しかも、この世界には、別なウィントンが存在していたのです。

濃霧管制は、異星人による探索を不能とする暗黒のフィールドです。人々は、夜を畏怖するようになっていました。このライフスタイルの全く変わってしまった世界観は面白いですね。

逃げ場のなくなったウィントンは、人工知性体メッキーの助力を得るため、宇宙へ向け旅立つことを決意し・・・、と続きます。

クライマックスは、伝統的なスペースオペラの様相を呈します。地球の指導者ドペルとは何者か。そして、ウィントンが感じるこの世界の違和感の正体とは何か。ここが、明らかになるに従って、本作品が、SFのパロディであるという由縁が分かるのです。

パラレルワールド好きには、必読の書でしょうね。

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