【本の感想】マイクル・Z・リューイン『A型の女』

マイクル・Z・リューイン『A型の女』

私立探偵アルバート・サムスン 初登場作品。

マイクル・Z・リューイン(Michael.Z.Lewin)は、ネオ・ハードボイルドの一翼を担っているそうですが、著者の創作したアルバート・サムスンは、他のネオ・ハードボイルド作家の主人公と違っていたってまともな男。知性派と形容される暴力とは無縁の私立探偵です。男やもめの37歳、離婚歴あり(娘ひとり)、ガールフレンドあり、バスケットボールはやるのも見るのも好き、読書は欠かさない。探偵としてとてつもなく優秀かというと、さにあらず。ちょくちょくミスはするし、思わぬ事態に震えあがったり、落ち込んで眠れぬ夜を過ごしたりする。正義と打算の間で揺れ動く人間味溢れる男なのです。

というわけで、著者のデビュー作『A型の女』(Ask the Right Question)(1971年)の感想です。

私立探偵アルバート・サムスンは、富豪の娘エロイーズ・クリスタルから「生物学上の父親を探して欲しい」と依頼されます。両親の血液型の組み合わせから、自分は父リアンダー・クリスタルの娘ではないというのです。エロイーズの態度に心惹かれたサムスンは、依頼を受け調査を開始することにしました。しかし、エロイーズが産まれた15年前当時の状況からは、なかなか真実にたどり着くことができません。サムスンは、祖父のエスタス・グレアムら関係者の過去をひとつひとつ洗い出していきます。やがてサムスンは、リアンダーの口から真実を告げられるのですが ・・・

事件の依頼内容はいたって地味です。ページをめくる手が止められないといった類のストーリではないのです。捜査のために身分を詐称し不法侵入までしてしまうという大胆さと、びびったりくよくよしたりする繊細さの同居したサムスンの魅力を、本作品では味わえます。シリーズものの出だしとしては上々というべきなのでしょう。

姿が一切でてこないガールフレンド(『そして赤ん坊が落ちる』で主役をはります)や、ダイナーを経営する母親、うだつの上がらない部長刑事ミラーなど、シリーズを読み込んでいくと思い入れが強くなりそうな予感はします。サムスンの過去も徐々に明らかになっていくでしょう。

本作品の依頼内容は思わぬ展開を見せて、センチメンタルなラストを迎えることになります。あとがきで池上冬樹は三回読んで、三回泣いたと書いているけれど、どうだろうでしょうか。サムスンの男としての矜持には、ハードボイルドとしての系譜を見ることはできるかな。

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