第一次世界大戦前夜を舞台とした冒険小説です。著者の代表作の一つ『針の眼』のように、歴史の、”もしかして”、に思いを馳せさせる作品となっています。当時の英国に押し寄せる時代の変化の波が背景となっていて興…
【本の感想】ケン・フォレット『針の眼』
1979年 アメリカ探偵作家クラブ 最優秀長編賞。
1980年 週刊文春ミステリーベスト10 総合6位。
ケン・フォレット(Ken Follett)『針の眼』(Eye Of The Needle) (1978年)は、第二次世界大戦末期、ノルマンディー上陸作戦前夜を時代背景としたスパイ小説です。
スパイ小説といえば、ジョン・ル・カレのジョージ・スマイリーや、フライアン・フリーマントルのチャーリー・マフィンを思い起こします(イアン・フレミングのジェームス・ボンドもいますか)。彼らは粉骨砕身、職務を全うする有能な諜報員です。
本作品の主役、ヘンリー・フェイバーも敏腕諜報員なのですが、彼らとは違って、最強の敵として描かれています。
ドイツの諜報員 コード・ネーム「針」ことフェイバーは、連合軍の上陸地点がノルマンディであることを突きとめます。カレー上陸の偽情報に踊らされていたドイツ。大戦の趨勢を左右する証拠を自国に持ち込むべく、フェイバーは、英国からの脱出を試みます。
フェイバーを追うのはイギリスMI5のゴドマリン。冷酷無比に殺人すら厭わず逃避行を続けるフェイバーと、それを阻止せんとするゴドマリンとの頭脳戦が見所です。
海路を逃走中、遭難にあうフェイバー。
フェイバーが流れ着いたのは、半身不随の灯台守デイヴィッドと妻のルーシイ一家が暮らす小島です。一家は、図らずもフェイバーを救助してしまいます。
やがて、夫婦仲が冷え切っていたルーシイは、フェイバーと道ならぬロマンス(!)に陥いって・・・という展開。 このルーシイの”よろめき”は、好悪が分かれるところでしょうか。でも、これがなければ、ラストの痛烈さはなくなってしまうのです。
フェイバーは、果たして任務を全うできるのか(歴史が証明しているので結論は明快なのですが)。ディヴィッド夫妻の関係、妻の死から立ち直れないゴドマリンの部下ブロックズなど、本筋に上手く絡めながら物語は進行していきます。 歴史の裏側の虚々実々を、ここまでものしている、29歳(当時)のケン・フォレット恐るべしですね。
ラストは、ホラーばりの緊迫感あり、イッキ読みしてしまいました。
本作品が原作の、1981年公開 ドナルド・サザーランド主演 映画『針の眼』はこちら。
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