【本の感想】ジェイムズ・クラムリー『ダンシング・ベア』

本の感想 ジェイムズ・クラムリー『ダンシング・ベア』

1985年 週刊文春ミステリーベスト10 海外部門第2位。

ミルトン・チェスター・ミロドラゴヴィッチ三世。通称ミロ。47歳。5回の離婚歴あり。神様が公認している職業 酔っぱらい。ときどき探偵。

ネオ・ハードボイルドの旗手ジェイムズ・クラムリー(James Crumley)の創作したアンチヒーローです。往年のハードボイルドの主役たちが孤高の気高きヒーローなのに対して、ネオ・ハードボイルドの主役は心に傷をもつ内省的な人物を配するのが特徴(らしい)。

『ダンシング・ベア』(Dancing Bear ) のミロは、ドラックとアルコールに溺れる中年男(もっとも、前作に比べてアルコールは控えめではある)です。資産家の家に生まれ、然したる志のないまま、信託財産が手に入る52歳になる時をひたすら待ち続ける日々。典型的なダメ男。いや、ダメ人間。

本作品は、警備員の仕事にありついたミロに、探偵の仕事が舞い込むところから始まります。依頼人は、なんと、ミロの父親の元愛人サラ。富豪となったサラは、自室の窓から見える公園の男女の仲が気になるので、彼らが何ものか探って欲しいといいます。老人の道楽にお付き合いすることに決めたミロでしたが、尾行した男の方が爆殺されてしまいます。おまけに、ミロまで命を狙われているようです。いったい何が ・・・ と続きます。

次々と起こる困難にヘコタレそうになるミロ。すぐさまドラックとアルコールに手が伸びます。捜査方法もスマートさとは程遠いですね。凍てつく寒さの中で右往左往。

でも、確実に真相に迫っていきます。かっこよさとは無縁ですが、相手が誰だろうと諦めません。どこか一本筋が通っています。ダメ人間の根っこのところにある男の矜持=ハードボイルドな精神がミロの魅力なのです。

トンガリまくっている登場人物たちもステキです。本作品は女性の登場人物が多いのですが、皆、一筋縄ではいかないクセものぞろい。キャラクターの造形の上手さは、寡作な作家クラムリーの真骨頂というところでしょうか。本国では、クラムリーの作品は純文学に分類されているとのことです。なるほど、肯けます。

ラストには、ちょっとした驚きがまっています。

本作品は、『酔いどれの誇り』に続く、ミロ シリーズの2作目にあたります。前作を読んでいなくとも十分に楽しめるのですが、この2作は、若干、趣が違っています。男の哀感は前作の方が勝っているように感じますね。本作品の読後に残るのは、痛快さでしょうか。どちらも、傑作には違いないのだけれどね。

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