【本の感想】貫井徳郎『愚行録』

閑静な住宅で発生した一家四人の惨殺事件。貫井徳郎『愚行録』は、事件の背景を探るルポライター 田中のインタビュー形式で物語が進行します。被害者の家族は、大企業に勤務する夫 田向浩樹 、美しい才媛の妻 友希恵 、二人の可愛い子供たち。高学歴夫婦の幸福を絵に描いたような家庭は、周囲の羨望と嫉妬を集めざるを得ません。

ルポは夫婦の現在から、学生時代の友人たちまで遡って、人となりを紐解いていきます。

インタビューが進むにつて、なんとも居心地の悪い気分にさせられます。それは、インタビュイーたちのどす黒い心のうちが透けて見えるからなのです。口では褒めそやし、哀悼を述べながら、やんわりと夫婦の人間的ないやさしさを漏らしていきます。誰もが羨む理想のカップルに隠された、非人間的な冷徹さが語られるわけです。澱のようにたまった憤懣がぶくぶくと表れてくる様が、巧みに描かれている。読み進める度に嫌な思いをさせられのですが、ここは、著者の筆力の高さを感じざるを得ません。

興味の中心は、インタビューの合間に挿入される謎のモノローグが、どのように事件と関わりを持つのかです。一見、ハイソな一家とは無関係な、女性の悲惨な過去が縷々語られていきます。自分は事件の真相には、残念ながらちょっと不満なのだがどうでしょうか。もっとも見るべきはそこではないのだと思いますが。

本作品には、有名私大の学生間の格差が赤裸々に描かれています。これは、興味深いですね。こういう実情を見ると、自分もインタビュイーと同じ僻み根性がむくむくと湧きあがってきてしまうのですよ。

2017年公開 妻夫木聡主演 『愚行録』

本作品が原作の、2017年公開 妻夫木聡主演 『愚行録』はこちら。人の感情のドロドロは、文章で読んだ方が凄みがあります。映像化するとこうなっちゃうのかぁ…、という作品でした。

映画「愚行録」