【本の感想】ピョートル・フェリークス・グジバチ『世界一速く結果を出す人は、なぜ、メールを使わないのか』

ピョートル・フェリークス・グジバチ『世界一速く結果を出す人は、なぜ、メールを使わないのか』

グーグルというと、入社試験の難易度(奇問度?)が高い!、社員が尖がってる!、超最先端!、福利厚生が凄い!、なんて事が世に喧伝されています。極度に個人の能力が先鋭化された企業、という印象を持っている方が、多いのではないでしょうか。

ピョートル・フェリークス・グジバチ 『世界一速く結果を出す人は、なぜ、メールを使わないのか』は、端的に言うと、元グーグル社員が語る、グーグルでの働き方です。如何にして個人技に磨きをかけるか、が趣旨なのだろうと勝手に想像しました。しかしながら、本書の主張は、副題に「グーグルの個人・チームで成果を上げる方法 」とある通り、チームで成果を出すためには何が必要かの方に力点が置かれています。

本書の示唆する所は、無駄を悉く廃し、有用な事にこそ時間を割くべきという至極当たり前のことです。日々漠然と思っている事を改めて文章で読むと、著者に背中を押してもらっているような錯覚を覚えます。

以下の、著者の言には共感すること頻りです。

クリエイティブな発想が求められるときに、精緻な数値分析はいらないどころか、かえって邪魔になります。必要なのはひらめき、直観、研ぎ澄まされたセンスです。

旧態依然としたマネジメントは、発想の根拠を数値に求める傾向にあります。頑張って分析しても出てくるのは数学的には正しい一つの答えだけ。サイエンスとアートの違いが分かってはいないのです。これは、山口周『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?~経営における「アート」と「サイエンス」』の主張と同じです。

コレクティブ・インテリジェンス、つまり集合知こそ、クリエイティブな発想を生み出す秘訣なのです。

集合知を構成するには、前向きさ(ポジティブ)のような、ある一定のマインドは必要でしょう。烏合の衆という言葉がある様に、時間の経過だけで達成感を味わう集まりは、まだまだ絶滅してはいません。

本来、何のために企画会議をするのかといえば、高いアウトプットを生み出すためであって、評価するためではないはずです。

ダメ出しをすると仕事をした気になるのは、これまた、旧態依然としたマネジメントスタイルです。企画会議におけるNGワード(例えば、それ儲かるの?等)は頭では理解しているものの、発言せねばで気分が高揚すると、ついつい言ってしまうんですよね。

成功させるためにリスクを挙げているのであって、やめるために挙げているわけではないのです。

これを、ズバっと言い切ってしまうあたりに、グーグルのマインドが良く表れていると思います。ネガティブな物言いでリスクを論われると、じゃあ止めましょうと言いたくなりますが、その時には止めるのが最大のリスクという場合もあります。「レビュは課題を解決するために行うんだ!」という、掛け声だけは立派で実行を伴わない、デキないマネジメントの言を思い出してしまいました。

リーダシップというのは、自分の安全領域から一歩出る行動でもあるのです 。

そうそう、それなっ! 。著者はあるべきリーダ像にも言及します。慣れ親しんだフィールドの中だけでふんぞり返ってるだけのリーダはいらないのです。ある局面ではファースト・ペンギンに成らなくてはなりません。

本書には、その他に「心理的安全性」「フィードフォワード」「ニューロロジカルレベル」「forミッション・withミッション 」「回避思考」「証明思考」「学習思考」と「成長思考」といった気づきを与えてくれるワードが盛り沢山です。自分の血肉とするには、一読しただけじゃダメですね。

メールの多用を避けて対面で会話、早めのすり合わせが大切等、本書を読んで、無駄を究極的に排除する思考が、人と人の関係の優先度を下げることではないと、改めて気付かされました。何が排除すべき無駄であるのかを的確に理解している者こそ、”世界一速く結果を出す人”になり得るということです。

ただ、無駄を廃すると言っても、服を選ぶ時間が勿体ないから何時も同じ服を、というのはちょっとね・・・