【本の感想】山口周『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」』
2018年 ビジネス書大賞 準大賞受賞作。
山口周『『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」』は、ざっくり言うと、複雑さが際立つ昨今の経営においては、論理的思考による意思決定(サイエンス)だけでは、他社に抜きんでる事はできない。よって、サイエンスを超える美意識(アート)が必要という趣旨が述べられた自己啓発本です。サイエンスが苦手な自分には、実に喜ばしい…と思ったら、アートもそれほど得意でないことに気付きます。
そもそも美意識は鍛えると高まるのか?という疑問がチラリと過りますが、本書は、そんなハテナ?を吹っ飛ばしてくれる刺激的な内容です。
著者は、現在の経営を計測的な指標だけをひたすら伸ばしていく、一種のゲームのような状態であると断じています。これが、コンプライアンス違反の元凶なのだとも述べます。確かに、多くの勤め人は、売上、利益、コスト、KPI等々・・・見える化という名の計測可能な数値に雁字搦めになって、如何にしてこれを達成するか、達成したら次にどれだけこれを上回るのか、について上意下達で考えることを使命としています。
社員がこのような計数マシンと化してしまうなら、企業が強く求める新しいビジネスなんて創出できっこない、とは誰でも分かるはずです(新しいビジネスn件みたいな指標だけは作ったりして)。数学の世界は答えは、(概ね)一つに決まっています。だから、「正解はコモディティ化」するのです。「VUCA」(ブーカ)(Volantitiy=不安定、Uncetrtanity=不確実、Complexity=複雑、Ambiguity=曖昧)の時代において、じゃあ、どうするの?が本書の主張です。
著者は、経営には
直感と感性、つまり意思決定者の「真・善・美」の感覚に基づく意思決定が必要
乾いた計算のもとになされる経営から、人をワクワクさせるようなビジョンや、人の創造性を大きく開花させるイノベーションが生まれるとは思いません
と説きます。
イノベーションにはストーリーが必要である、といった趣旨は、あちこちのビジネス本で良く目にするようになりました。本書の目新しさは、「真・善・美」を意思決定の尺度としている点です。それは、人によって違うよね、というのが当然のイチャモンですが、著者は、より高度な意思決定をするためには、美意識を高める不断の努力が必要だと述べています。
経営者がイノベーションを語るときに、他社が真似のできないものをという、要求をいとも簡単に発します。しかしながら、これがなかなか難しいのです。著者はこの点でも明快です。
世界観とストーリーは決してコピーすることができない
なるほど、イノベーションを小手先の技術として捉えるのではなく、「真・善・美」の備わった”世界観”と”ストーリー”を描きなさい、ということですね。こう断言されると、自ずとワクワクが高まります。何も難しいことを研究しなくても良いのです。とにかく美意識を磨く。これに尽きるのですから。
本書を読んで、何やら上手く丸め込まれた感もありますが、哲学書を読んで「真・善・美」を探求しようという気にはなりました。
以下、自分がビビっときた本書の名言を抜き出してみましょう。
ビジネスの世界では時間というのは競争資源ですから
競争資源という視点はありませんでした。どこかでうそぶいてみよう。
アカウンタビリティという「責任のシステム」が、かえって意思決定者の責任放棄の方便になってしまっているわけです
これは、政治の世界で顕著です。やれやれ。
そのエッセンスを視覚的に表現すればデザインとなり、そのエッセンスを文章で表現すればコピーとなり、そのエッセンスを経営の文脈で表現すればビジョンや戦略ということになります
実に明快!そして本書のベストな名言です!
マーケティングというのはパーセプション=認識がすべてですから、正しいか正しくないかは問題ではない。それが「誤解」であれば、その誤解を徹底的に利用することを考えた方がいい
おっと、これはもっと掘り下げたいテーマです。
「顧客に好まれるデザイン」ではなく、「顧客を魅了するデザイン」
おもねるな、ということですね!
デザイン思考というのは、問題解決の手法であって、創造の手法ではない
デザイン思考を新商品の開発に使うのは誤り?こちらが正解とすると、とてつもない誤解をしていたような。
山口周 監修 PECO 絵『マンガと図解でわかる 世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか?』は、こちら。最近の自己啓発本、ビジネス本はマンガ版も出ちゃうわけですね。やっぱり、これには抵抗がある・・・