【本の感想】長岡弘樹『教場』

長岡弘樹『教場』

2013年 週刊文春ミステリーベスト10 国内部門 第1位。
2014年 このミステリーがすごい! 国内編 第2位。

長岡弘樹『教場』は、警察学校を舞台としたミステリー連作短編集です。文庫の裏表紙のあらすじに、「”既視感ゼロ”の警察小説」とありますが、確かにこれまでお目にかかっていないジャンルの作品です。

警察学校初任科第98期短期過程に入校した生徒たちを待っていたのは、教官 風間公親。風間は、生徒たちの中から不適格者を厳格に見つけ出し、排除していくルールブックのような存在です。抜群の論理思考の持ち主で、あくまで冷徹な言動を貫く風間。そんな中でも、ふっと優しさを垣間見せるキャラクター設定が秀逸です。

生徒たちは、半年間の過酷な教練に耐え、警察官として旅立つことができるのか・・・

警察学校に通っていた方の話を聞くと、作中にあるように不要な人材を篩にかける場であることは、確かなようです。ただし、この間に、本作品のような刺激的(?)な事ばかりは、起こらないでしょう。

本作品では、職務質問や取り調べの仕方といった、捜査の実践レベルのイロハを教えてくれます。これも、本作品の魅力ですね。

■第一話 職質
宮坂定は、恩人である警官の息子 平田和道を、何くれとなくフォローします。職務質問想定実習でもヘマをした平田を、自身がより手ひどいミスをして助けた宮坂。そんな宮坂の演技を風間は見抜き、課題を与えるのでした・・・

宮坂が招いた親切心が招いたものとは何か。ぶっつり切れた結末は、次の短編にて明らかになるという趣向です。

■第二話 牢問
岸川沙織の元に、匿名で届く脅迫状。沙織は、楠本しのぶにこの事を打ち明けます。風間は、手紙についた香から、送り主はしのぶだと気付くのでした。ただの悪戯と言うしのぶ。しかし、沙織は・・・

しのぶの悪意の原因を見破る、風間の慧眼が見所です。本作品も結末は、次の短編へ持ち越します。

■第三話 蟻穴
白バイ隊員を目指す鳥羽鴨照は、稲辺隆が自他ともに認める親友です。そんな稲辺が無断外出の疑いをかけられた時、証人となってくれるはずの鳥羽は、知らないと突っぱねてしまいます。風間は鳥羽の日誌から、耳に異常があることを見抜いて・・・

裏切りへのしっぺ返しが、苦い余韻を残す作品です。

■第四話 調達
元プロボクサーの日下部准は、樫村巧実が欲しいものを手に入れる「調達屋」だと気付きます。教官への報告を宣言する日下部に、樫村は日下部が一番欲しているものを、黙認の交換条件として持ち出すのでした・・・

日下部が手に入れたものの結果から、新たな犯罪が明るみに出るという捻りの効いた作品です。風間の尋問に持っていく手管が、堪能できます。

■第五話 異物
教練中、由良求久が運転するパトカーに紛れ込んだスズメバチ。パニックになった由良は、安岡学を庇った風間をはねてしまいます。由良は、安岡がスズメバチを車内に入れたのではと疑いを抱き・・・

風間の優しさが前面に出ている、ハートウォーミングな作品です。全編の中では、確かに異物、いや異質かな。

■第六話 背水
成績優秀者 都築燿太が編さん委員を務めた卒業文集で、これまでの登場人物たちの思いがつづられます。最後にこれを持ってくると、ぐっと感慨深さが増します。

本作品では、風間の過去に関することは、殆ど触れられていません。シリーズを追うごとに明らかになってくるのでしょう。

本作品が原作の、2020年 放映 木村拓哉 出演 フジテレビ開局60年特別企画『教場』はこちら。

2020年 放映 木村拓哉 出演 フジテレビ開局60年特別企画『教場』

風間公親役 木村拓哉は良い味を出しています。やたらと退職届を突き付けますが、そこは原作とは違います。第三話「蟻穴」は、映像化されませんでした。