【本の感想】村山由佳『星々の舟 Voyage Through Stars』

本の感想 村山由佳『星々の舟 Voyage Through Stars』

2003年 第129回 直木賞受賞作。

村山由佳といえば、渡辺淳一の系譜につらなる恋愛小説家のイメージがあります。若い頃は、恋愛至上主義的な作品は敬遠していたのですが、おっさんも極まってくると、受け入れられる、いや積極的に読んでいたりするのです。プロットとしては恋愛ドロドロ模様も、作家の腕(筆)次第で美しい文学に昇華します(直木賞受賞作では藤田宜永『愛の領分』に感銘を受けました)。

村山由佳『星々の舟 Voyage Through Stars』は、昔気質の職人の父、長男、次男、長女、次女らのそれぞれの人生のひと時が描かれた連作短編集です。

母の死をきっかけに、家族と疎遠になっていた次男 暁が帰郷するところから、第1話「雪虫」は幕を開けます。遠く離れた地で家庭をもっているものの、満たされない何かを抱えた様子の暁。暁は、長女 沙恵との赦されない愛を引きずっていたのです。暁、沙恵 二人の過去と現在を中心に、以降、彼らの周辺の人々がそれぞれの愛に懊悩する(した)姿を描いていきます。

暁、沙恵の関係は、近親相姦と言い捨ててしまえばその通りなのですが、まったく鎮火することのない愛の炎に身を焼かれる二人の姿に魂が震えます。家族の中では公然の秘密。家族それぞれの愛のかたちが、二人の愛の物語に枝葉をつけていきます。

第2話「子供の神様」は、妻子ある仕事関係者と不倫をしている次女 美希が、第3話「ひとりしずか」は、 暁との再会で婚約者との別れを決意する沙恵が、第4話「青葉闇」は、ふとしたきっかけで年若い同僚と浮気をしてしまう長男 貢が主役です 。それぞれの短編は、独立した物語としても楽しめるのですが、 暁と沙恵の関係が通底音となっているがゆえに、厚みがでてくるのです(貢のよろめきドラマは中年の悲哀ですからね)。沙恵の過去に起きた残酷な出来事に衝撃を受け、暁に対する亡き母の想いにホロリです。

第5話「雲の澪」は、友情を裏切ってしまった罪悪感に押しつぶされそうになっている貢の娘 聡美が主役です。これは、他の物語の男女の恋愛と趣きが異なりますね。友情もひとつに愛のかたちですが、本作品だけぽっかり浮いているように思えます。聡美の祖父である、父 重之がみせる慈しみが印象的です。

第6話「名の木散る」は、戦時中の慰安婦との間に芽生えた愛情に想いを馳せる重之が主役です。頑固一徹な男の意外な過去、そして現在の移ろいゆく日々。老境に入るとはまさにこのことでしょう。ブンガクの香りを伴っていて、感慨深いものがありました。

確かに、赦されない愛もひとつの愛のかたち。本作品集の、するるんと入ってくる文章に心地よさは感じるのですが、 読了後は、なにやら寂しい気持ちになってしまいました。