【本の感想】南條竹則『恐怖の黄金時代-英国怪奇小説の巨匠たち』

南條竹則『恐怖の黄金時代-英国怪奇小説の巨匠たち』

南條竹則『恐怖の黄金時代-英国怪奇小説の巨匠たち』は、ニ十世紀初頭に活躍した英国怪奇小説の案内書です。本読みなら、怪奇小説に詳しくなくともブラックウッドラヴクラフトは、耳にしたことがあるでしょう。現代まで名を遺す作家を多数輩出した事実から、まさにこの時期は黄金時代と言えるのです。

本書には、ブラックウッドマッケンラヴクラフトM・R・ジェイムズベンスン兄弟メイ・シンクレアM・P・シールH・R・ウェイクフィールドと、彼ら(彼女ら)に影響を与えた人々、及び作品が取り上げられています。

作品の解説は、簡単な要約で結末まで触れられているので、これから読もうという方には目に毒かもしれません。要約であると怖さはないのですが、ストーリーの展開の仕方によっては、十分に恐怖を味わうことができるだろうと想像します。

かく言う自分は、アンソロジーで幾つかを目にしたくらいで、巨匠たちの作品を思い入れを込めて読んだわけではありません。スティーヴン・キングを始めとする(怖くない)モダン・ホラーをたまに手に取りましたが、古色蒼然たる正統派ホラーには触手は動きませんでした。怪奇小説は、マニア向けの印象もありますしね。

本書を通して、巨匠らの怪奇小説に専心した人生を知ると、沸々と読書欲が湧き起こります。紹介されている作品の内容を忘れてしまった頃に、改めて読み始めようか、とも思うようになりました。オカルティズムを信奉している作家、怪奇小説を書くこととオカルティズムを切り離している作家等、怪奇小説に取り組む姿勢は様々です。総じて賢く、プライドが高く、そして金銭的にはあまり豊ではなかったようですね。

注目したのは、第三章「師匠と弟子」の、劇作家のダンセイニ卿ラヴクラフトに関する解説です。クトゥルフについては、ほとんど記載がなく、ラヴクラフトの不遇と、ダンセイニ卿に対する創作へのアツい思いが中心です。ラヴクラフトが生涯、いちアマチュア作家を貫いたことに驚きました。ますます興味が湧いてきます。

第六章「レドンダ島の王たち」の、M・P・シールから続く王位継承のすったもんだも興味深いですね。怪奇小説とは直接関係ありませんが、物語ではなく実在するレドンダ島の王という存在と、それにまつわる人間模様は奇々怪々。もう少し、このあたりを掘り下げてみたくなりました。

本書は、紹介文にある通り、とても格調高い文章でつづられています。著者の、怪奇小説への並々ならぬ知識と愛情を感じる良書です。

巻末に著者が翻訳したM・R・ジェイムズ「枠の中の顔」が、付録として掲載されています( 本邦初訳)。うんうん、不気味ですね。