【本の感想】上田早夕里『魚舟・獣舟』

本の感想 上田早夕里『魚舟・獣舟』

さしたる理由もないのに食わず嫌い。自分は、読書について、その傾向が一段と強いのです。日本人女流作家の著わすSFは、面白くはあるまい、という思い込みがその一つ。偏見といってもよいでしょう。

上田早夕里『魚舟・獣舟』は、そんなカチカチ頭に衝撃を与えるSF短編集です。ややハードっぽい設定も素敵ですが、ストーリーのミステリアスな展開が、一気読みさせる力を持っています。

なにより、セリフ回しと、テンポが抜群に心地良いですね。著者のインタビューを探して読むと、演劇から「言語に美しさ」に影響を受けたと答えています。なるほど、これは翻訳ものではなかなか味わえるものではありません。

収録されている作品はどれも男性を主役に据えています。作者が女性であることを知らなければ、男性作家によるものだと思うでしょう。それほど、男性から見た目線をよくとらえているのです。

気に入った作品は、タイトル作の「魚舟・獣舟」、そして中編(?)「小鳥の墓」(「くさびらの道」、「ブルーグラス」も味わい深し)。

■魚舟・獣舟
陸地のほとんどが水没した海洋世界。ヒトは双子を産み、ひとりはヒトに、ひとりは魚として生きていく。やがて魚は双子のヒトを乗せる舟へと姿を変えるのでした。 ・・・なんと、感激ものの世界観であることか!

■小鳥の墓
教育実験都市に暮らす優秀な中学生たちのアウトサイダーな日々とその後。・・・巧みな心理描写とノワール感は、著者がリスペクトするパトリシア・ハイスミスと、ジェイムズ・エルロイ仕込みというところでしょうか。

またまた、気になる作家さんを知ってしまいました。積まれてしまう本が増えることでしょう。読書の幅を広げると、結局、こうなってしまうんだよなぁ。