【本の感想】シャーリイ・ジャクスン『丘の屋敷』

シャーリイ・ジャクスン『丘の屋敷』

シャーリィ・ジャクスン(Shirley Jackson)『丘の屋敷』(The Haunting Of Hill House) (1959年)は、ロバート・ワイズ監督『たたり』(1963年)、ヤン・デ・ボン監督『ホーンティング』(1999年)の原作です。『山荘綺談』から、出版社をかえ『たたり』として新訳になり、『丘の屋敷』に改題されています。ホラー映画好きの自分は、『ホーンティング』を見たのだけれど、恐ろしくも何ともない作品でした。

原作の方はリチャード・マシスン『地獄の家』(ジョン・ハフ監督『ヘルハウス』で映画化)、スティーヴン・キング『シャイニング』(スタンリー・キューブリック監督同名タイトルで映画化)に影響を与えたそうです。なるほど、本作品は、幽霊屋敷に集ったものたちに迫り来る怪異、という典型的なゴーストストーリーとなっています。

心霊学研究者モンタギュー博士は、<丘の屋敷>の不可思議な現象を調査するため、協力者としてエレーナ、セオドラ、<丘の屋敷>の持ち主の甥ルークを呼び集めました。八十年の長きに渡り、来るものを拒むかのようにひっそりと佇む<丘の屋敷>は、迷路のような回廊と歪んだ構造、そして不気味な装飾で4人を戸惑わせます。母親からの精神的な呪縛から逃れるため、調査に参加したエレーナ。お互い初対面のモンタギュー博士、セオドラ、ルークは、引っ込み思案なエレーナを暖かく迎え入れます。しかし、<丘の屋敷>に怪異が訪れるとき、4人の関係は徐々に変化していくのでした・・・

本作品は、派手な演出で読者を震え上がらせる類のホラーではありません。

油断しているとフイと視界を横切るものがいる、といった得体の知れない不気味さです。怪異な現象も、直接的に人々を攻撃するものではなくて、精神へ影響を及ぼしていくのです。

ストーリーは、過去に心霊現象を体験したエレーナを中心にして展開します。<丘の屋敷>の意思に共鳴するが如く、醜く歪んでいくエレーナの心理状態に、じわじわとした恐怖を感じることでしょう。深夜に大きな音を出して部屋叩く何ものかがいる。部屋の壁を真っ赤に塗りたくった何ものかがいる。一晩中手を握っている何ものかがいる。しかし、怪異な現象を巻き起こす真の正体は分からない。果して、エレーナは、どうなっていくのでしょう。

本作品は、登場人物たちの個性がきっちりと描かれています。だから、エレーナが、親しみさえ覚えていた美しいセオドラへ、徐々に憎しみを掻き立られていく様が面白いのです。女性作家ならではの感性で、ふとした所作に対する嫌悪感を巧みに表現しています。屋敷の管理人ダッドリー夫妻の冷淡さや、途中から調査に参加するモンタギュー博士夫人とその友人のアーサーの俗物さといった、ストーリーの隠し味も効果的です。本作品は、こんなバケモノ出てきました~というのが苦手な方にも楽しめます。

本作品の内容からすると、『たたり』というタイトルは、扇情的過ぎるかもしれません。だから、『丘の屋敷』に改題したのかな。これは、これで地味ではありますね。

本作品が原作の、1999年公開 リーアム・ニーソン、 キャサリン・ゼタ=ジョーンズ 出演 映画『ホーンティング 』は、こちら。テレビでたまに放映されるので、ご存知の方は多いでしょう。

1999年公開 リーアム・ニーソン主演 映画『ホーンティング 』

2018年 Netflixにて、本作品が原作の『ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス』 が配信されました。

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