女流SF作家を甘く見た偏狭さに衝撃を与えるSF短編集です。ややハードっぽい設定も素敵ですが、ストーリーのミステリアスな展開が、一気読みさせる力を持っています。なにより、セリフ回しと、テンポが抜群に心地…
【本の感想】上田早夕里『美月の残香』
上田早夕里『美月の残香』は、ホラーなのか、ミステリなのか、はたまた奇妙な味なのか。読み進めながらも、なかなか正体が掴めない(?)作品です。
遥花と美月は一卵性のふたごの姉妹。遥花は、華やかな美月と幼い頃から比べられ、煩わしさを感じています。
美月が太陽ならば、私は日蝕中の太陽
大人になるに従って、遥花は、美月との距離を置き始めます。二人が別々の道を歩み始めてから程なくして、遥花は、美月が結婚することを知るのでした。
相手の真也もふたごの兄弟です。
真也が太陽ならば、弟の雄也は日蝕中の太陽
遥花は、ぶっきらぼうですが、心根の優しい雄也を愛するようになります。
しかし、美月と真也の幸せな結婚生活は、突然、終わりを告げます。美月が、失踪してしまったのです。行方は杳として知れず、月日だけが過ぎていきます。精神的に不安定な日々を過ごす真也は、美月の香水をつけてくれるよう遥花にねだるようになるのでした。そして、その願いは、執拗さを増していき・・・
太陽のような輝きを放っていた真也が、徐々に日蝕中の太陽へと変じていく様子と、それに巻き込まれるように揺れ動く、遥花の気持ちが巧みに描かれています。
美月の香水アン・レーヴ・スクレ=密かな夢 をつけて匂いを嗅がせてくれと、あの手この手で迫る真也。その行為に、直接的な身体の要求よりも、ふしだらさを感じ、拒絶しつづける遥花。美月と遥花、そして真也と雄也の鏡像のような関係性から、遥花は、自身の内面にある欲求に触れ慄然となります。
遥花の否定してきた双子としての同一性が、遥花の中に美月の奔放さとして現れてしまうのでしょうか。
どうする、どうなる・・・。本作品は、良い意味で、イライラが募ります。
美月の水アン・レーヴ・スクレは、美月が、調香師に依頼したオリジナルの香水です。この香水に込められた密かな夢の意味が、本作品のせつなさと伴った残香となります。
余談。
調香師 鳴水は、全ての匂いを再現することが可能な、天才的なスペシャリストとして登場します。鳴水は、シリーズ作品として主役が張れるほど魅力的なキャラクターです。是非、シリーズ化してもらいたいなぁ。
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