【本の感想】佐藤友哉『デンデラ』

佐藤友哉『デンデラ』

いい歳になった自分は、保険の見直しで命の値段が50%オフになりました。

そういうのもあって、最近、老後などを考える事が増えています。未来をウジウジ考える大人になりたくないと思いながらも、今や、すっかりそういう大人です。濡れ落ち葉にならぬよう、アクティヴなじじいを目指し、準備を進めていこう。ポイされんようにね。

佐藤友哉『デンデラ』は、ポイされてしまった老婆たちの物語です。

時代背景は判然としませんが、口減らしとして姥捨てが慣例化している貧農が舞台であることから、推して知るべしでしょう。登場人物は、皆、老婆です。なんと平均年齢80歳強!

70歳を迎えた斎藤カユは、村の慣例通り『お山』に捨てられました。極楽浄土を願い雪原に横たわるカユ。しかし、カユが目覚めると、そこには『お山』に入って死んだとばかり思っていた老婆たちがいるのです。

老婆たちは、「デンデラ」という女だけの社会を形成し、『お山』に入った者を救いながら、生きていました。助けられたことに怒りを露わにするカユ。「デンデラ」に溶け込もうとしないカユでしたが、やがて、老婆たちの対立に巻き込まれて ・・・

本作品を読んでいて斎藤環『戦闘美少女の精神分析を思い出しました(リンクをクリックいただけると感想のページに移動します)。

『戦闘美少女の精神分析』では、闘う少女たちをファリック・ガール=男性器を持つ女性と定義づけて精神分析を試みていくのだけど、斎藤カユら老婆たちのキャラクターがまさにファリック・ガールなのです。

会話を追っていくだけなら、年齢、性別ともに不詳でも通じてしまう。そんな独特な雰囲気が本作品を特徴付けているようです。

『村』に復讐を誓う襲撃派と「デンデラ」の繁栄を願う穏健派の内紛、襲い来る凶暴な人喰い羆、そして謎の疫病。凍てつく雪景色の中、闘いが繰り広げられます。

一人また一人と命を落とす老婆たち。ヒロイズムに突き動かされた行動に、戦闘美少女の精神性が垣間見えます(肉体の破壊描写がグロテスクゆえに、そういうシーンが苦手な方は注意されたし)。さぁ、戦闘”老婆”の生きざまを見よ!

崩壊しつつある「デンデラ」を前に、襲撃派にも穏健派にも冷ややかな態度をとっていたカユは、突然、目的意識に目覚めます。ラストは羆との最終決戦です。満身創痍となったカユの決断とは何か。そして、それは成就するのでしょうか ・・・ と続きます。

本作品を簡単に要約すると、ただただ、老婆たちが殺されていくだけのお話です。好き嫌いが別れそうだけれど、解説にあるようなラノベ感覚と、老婆たちのアクティヴさに惹かれます。中でもカユのパンクスぶりが気に入っています。

そういえば、自分も、昔、心はいつもパンクスだったなぁ。じじいになってもキレキレで、カッコ良くいたいものです。

本作品が原作の、2011年公開 浅丘ルリ子、草笛光子、倍賞美津子出演 映画『デンデラ』はこちら。

2011年公開 浅丘ルリ子、草笛光子、倍賞美津子出演 映画『デンデラ』

凍てつく雪国(ロケ地は山形県庄内地方とか)で、 お年を召した名女優たちが繰り広げる、体当たり演技が見所です。原作に忠実ではあるものの、流石に、独特のラノベ感覚を味わうことはできませんでした。 斎藤カユ役の浅丘ルリ子さんの、方言交じりの男言葉は、野沢雅子演じるところの孫悟空にそっくりではあるのですが。

人喰い羆の映像化には不安を覚えていましたが、スピード感のある凶暴さは、しっかりと表現されています。

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