【本の感想】中薗英助『闇のカーニバル スパイミステリィへの招待』

中薗英助『闇のカーニバル スパイミステリィへの招待』

1981年 第34回 日本推理作家協会賞 評論その他の部門賞受賞作。 

今年、CIAが「君もスパイにならないか?」と、ネットで求人を出したのが(地味ながら)話題になりました。スパイというと、ジョン・ル・カレを幾つかを読んだためか、国際間の謀略戦の中に蠢く影の如き存在というイメージが強くあります。現在でも、一般人が知らないところで暗闘は続いているのでしょうが、先のメッセージを見ると、随分開かれた職業になったなぁ、という感想を持ちました。このように採用が開けっ広げになると、スパイ小説は次のステージに移行していくのでしょうか。

中薗英助『闇のカーニバル スパイミステリィへの招待』は、スパイをテーマとした評論集です。

著者は、日本のスパイミステリの第一人者だそうですが、自分は作品を読んだことがありません。幾つかの作品を読み終えていれば、著者の主張に首肯したり、反発を覚えたり、感慨を深めることができるのでしょうが、残念ながら目が滑って時間ばかりかかってしまいました。

本書は、著者の評論を集めたもので、スパイ・ミステリィ論、(当時の)スパイの実情、三好徹との「CIAの暗殺計画とスパイ小説」をテーマとした対談、映画論・作家論、軽いタッチのエッセイ、創作メモからなっています。

1960年代から1970年代の論考なので、当時の国際政治にまで理解が及ばず、そのさらに裏側が論じられても、ピンとこないのが辛いところです。ちらちらと当時のことを調べながら読み進めると、著者の洞察力が優れているのは分かります。しかしながら、旬を過ぎてしまえば、スパイ・ミステリィというジャンルは、その時々の社会情勢に即していればいるほど、著しく鮮度が落ちてしまうのでしょう。著者がオシているエリック・アンブラーは、既に書店では絶滅状態ですしね。

本書を読んでも、残念ながらこれは!という記述は見られません。ただし、文章は美文とも言える卓越したものなので、機会があれば著者の作品を手に取ってみようと思います。そこから、本書の創作ノートを再読してみるのが正解かもしれません。

う~ん、歯切れが悪い感想になってしまった・・・