【本の感想】大谷羊太郎『悪人は三度死ぬ』
1987年 週刊文春ミステリーベスト10年 国内部門第9位。
大谷羊太郎『悪人は三度死ぬ』は、人体消失、死体の瞬間移動といったトリックが堪能(?)できる本格推理小説です。
著者は、プロのミュージシャンで、芸能界に籍を置いていることから、ギョーカイを舞台にした作品が多いようですね。江戸川乱歩賞受賞作『殺意の演奏』は未読ですが、あらすじを見る限り、同じ路線でしょうか。
衆人環視の中から忽然と姿を消した男 櫛田。程なくして、櫛田は、他殺死体で発見されます。ニュースを知った推理作家の浅井は、4年前の櫛田との因縁を想い出します。当時、車の中で焼死体が発見された事件を、テレビで他殺と推理した浅井は、櫛田から執拗な嫌がらせを受けたことがあったのです・・・
自分は、殺人の手口やトリックを殊更詳細に書かれるのが苦手です。本作品は、実にトリックがややこしい。そもそも、ロープを使う時点で、拒否反応が起きてしまうのです。嫌いな小道具といっても過言ではありません。ああして、こうして、こうなって、という手順を読んでいるうちにイライラ感が募ってしまいます。積読本をいち早く消化しなければいけない立場ゆえ、マニュアルのような記述を理解する気になりません。
後々出てくる電話を使った不在証明は、さらにさらに複雑怪奇です。本格推理ものは、シンプルに読ませてくれなければ、いけないでしょう。
真犯人は、想定の範囲内で驚きはありません。なぜなら、最初から「怪しいでしょ?」と言っているようなものですから。ミスリードを仕掛けてくれるならともかく、まんまじゃん!はいただけませんね。都合良すぎだろう、というシーンも随所に散見されます。人間ドラマとして見ても、説得力に欠けているんじゃないでしょうか。本作品が良かったのは、「悪人は三度死ぬ」っていうタイトルに込められた意味で、ここが判明するくだりでは、フ~ムとなります。
過去のミステリベストテを紐解いていくと、現代のものの方が良く練られているように、しばしば思います。まぁ、大人の事情もあるのでしょうが。
本作品が、火サスとか土曜ワイドでドラマ化されなかったのは、トリックがビジュアルに適してないからなのかもしれませんね(しつこいか)。