【本の感想】海野十三『十八時の音楽浴』

海野十三『十八時の音楽浴』

日本SFの始祖 海野十三『十八時の音樂浴』(1946年)は科学小説です(となっている)。

ミルキ閣下に統治されているアリシア区では、十八時になると住民は、螺旋型の金属パイプに設置した座席に座り、音楽を聴かなければなりません。その音楽=国楽第39番を聞くと、人々は、標準人間と化していくのです。それはミルキ閣下の独裁を強化するための施策。ミルキ閣下は、愛人アリサ女子のアドバイスを得て、国楽の発明者コハク博士を始末し、常に国楽を流すようになります。国楽は人々を支配する代わりに、精神を徐々に蝕むようになってしまうのでした。

国楽はだんだん激して、熱湯のように住民たちの脳底を蒸していった

そんな中、火星の民族がアリシア区に来襲します。しかし、まともに戦えるものは、誰一人として残っていませんでした・・・

独裁者の、自業自得の末の哀れな末路というのは、ありふれたお話し。注目したのは、洗脳に抵抗する男性が、身体改造して、女性になるというエピソードです。当時からすると、かなり進んだジェンダー感のように思えるのですが、どうでしょうか。

人々に取って変わっていくの果たして何ものか。発表当時の時代背景と深く関わっているのでしょうが、終末観を強く感じる作品になっています。

なお、青空文庫には、『「十八時の音楽浴」の作者の言葉』という本作品の序文があって、こちらには科学小説を理解していない編集者への怒りが見て取れます。併せて読むと面白いでしょう。

海野十三『「十八時の音楽浴」の作者の言葉』