【本の感想】山口雅也『日本殺人事件』

山口雅也『日本殺人事件』

1995年 第48回 日本推理作家協会賞 短編および連作短編集部門 受賞作。

山口雅也『日本殺人事件』は、著者による翻訳の体をとり、異世界(!)の日本を舞台にした本格ミステリです。

何が真実で何がほら話か分からなくなる語り口が、本作品集の魅力でしょう。外国人から見た日本をパロディにしており、ニヤっとなるくらいのずれ加減が良いですね。随所で開陳される薀蓄も、これホントかしら?とついつい首を傾げてしまいます。ユーモアミステリの味わいながら、キラリと光る哲学的な件もあって、単調に陥る事がなく、飽きさせません。トーキョー・サムと微妙な間柄となるエクボさんと、彼女の父ハットリ・セイゴー警察署長との絡みも楽しく読ませてもらいました。全三話からなる、私立探偵 トーキョー・サムの活躍は、第三話が一番のお気に入り。何といってもタイトルが秀逸です(爆)!

■第一話 微笑と死
生さぬ仲の母の故国 日本、カンノン・シティへやって来た私立探偵 トーキョー・サム。宿泊先で偶然にも、ヤカタブネで知り合ったヤマダ・アサエモンの切腹現場に出くわします。アサエモンは、勤務する会社のリッパート社長と揉め事を起こし、責任を取って自死したのです。生前の約束の通りアサエモンの首をリッパート社長に渡した息子モンド。その後、リッパート社長が、アサエモン首と共に行方をくらましてしまい・・・

トーキョー・サムが、アサエモンの死の真相と、リッパート社長の行方を突き止めます。朝食のゆで卵を見て、閃きを得るとは・・・。エクボさんとトーキョー・サムのセップク談義は、とっても文学的!

■第二話 侘の密室
サド―のワキセン家の茶室に招かれたトーキョー・サムとエクボさん。主催者タケトラ・センオーと客のマツガメ・ゲンサイは十四世シュウコーを継ぐ候補と目されています。センオーとゲンサイの間で悶着タネとなった弟子のシュウコーも参加して、場には不穏な空気が。案の定、問題発生で激怒したゲンサイは茶室を後にするのでした。ゲンサイ、トーキョー・サムとエクボさんが再びそこを訪れると、内側から閂が掛けられています。そして、中にはセンオーの刺殺体が・・・

検死の結果、センオーはお茶の会の前に死亡していたことが判明します。密室殺人に加えて、こちらも謎なのです。本作品では、トーキョー・サムの母の兄、トーキョー・バショー伯父さんが事件を解決に導きます。チャノユの真の有り様を説く、格調高い(?)内容の作品です。

■第三話 不思議の国のアリンス
カンノン・シティへ来るヤカタブネで知己となったサヘイジに、クルワに誘われたトーキョー・サム。興味には抗えず、クルワに足を踏み入れます。タユウ アリスガワと酒を酌み交わしていたトーキョー・サムですが、突然目の前が暗くなり、目が覚めた時にはサヘイジは姿を消してしまっていたのです。そして、次の間には、アリスガワの死体が。その死体は、腕を切り落とされていました・・・

朝まで死体と添い寝していたトーキョー・サム。クルワの保安課長にすっかり疑われ詰問されるトーキョー・サムは、エクボさんの助けで、この場を逃げ出します。身の潔白を証明せざるを得ないトーキョー・サムは、アリスガワを殺害した犯人を見付けるべく捜査を開始します。

事件は、見立て連続殺人の様相を呈します。『第二話 侘の密室』では、バショー伯父のお手柄でしたが、本作品は、愛憎が複雑に絡み合った人間模様を紐解いていくトーキョー・サムの推理の冴えが堪能できます。

『續・日本殺人事件』でトーキョー・サム、再びですね。