【本の感想】森雅裕『椿姫を見ませんか』

森雅裕『椿姫を見ませんか』NO IMAGE

『モーツァルトは子守唄を歌わない』で第31回 江戸川乱歩賞を受賞したのが森雅裕(同時受賞は東野圭吾『放課後』)。出版社とすったもんだがあったようで、ファンは少なくないものの小説は全て絶版状態で、入手困難なものもあります。復刊ドットコムで『モーツァルトは子守唄を歌わない』が一時期蘇りはしたのですが・・・。自分も積極的ではありませんが、古書店で見かけたら手に取る作家です(破天荒な生き方にも惹かれるのですよ)。

『椿姫を見ませんか』は、芸術大学を舞台にした殺人ミステリです。

著者が東京藝術大学の出身ということもあって、芸術をテーマにした作品が多いように思います。まぁ、読んだ限りにおいてなのですが。

“椿姫”のプリマが、連続して毒殺さました。美術学部の守泉音彦は、毒物が入手困難な絵具であったことから、学内の誰かの手によることを確信します。プリマの代役は、音彦の高校時代からの友人 音楽部の鮎村尋深。死の舞台へ向かう尋深を、音彦は守ることができるでしょうか・・・

本作品は、著者の、音楽、美術についての造詣の深さが表れたものとなっています。事件の成り行きは、印象派の画家マネが実在の”椿姫”を描いたとした贋作事件を絡めいて、謎解きとして面白いのです。くわえて、芸術に専心する学生たちがリアルに描かれており、読み進めるにつれて作品の世界に惹き込まれてしまいます。蘊蓄だけに陥ることがないため、学生たちの芸術に向き合う姿勢が、門外漢にも理解し易いのです。

どこか斜に構えていながらも、優しさを併せ持つ音彦。きまぐれななかに、静かな情熱を感じる尋深。友人以上でありながら恋人にはなりきれない、つかず離れずの二人の関係が物語を盛り上げてくれます。

多少時代を感じる二人のやり取りではありますが、それがかえってノスタルジックな感慨に浸らせてくれました。事件の顛末は、切なさ満開です。

音彦と尋深の関係が気になる次回作は『あしたカルメン通りで』、そして『蝶々婦人に赤い靴(エナメル)』と続きます。

某大型古書店では、すっかりお目にかからなくなった森雅裕作品。う~ん、いよいよもって図書館かな。

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