【本の感想】長江俊和『出版禁止』
長江俊和『出版禁止』は、七年前に起きた心中事件の真相を解明せんとするジャーナリストの姿を描いた作品です。
ノンフィクションの如きフィクションで、所謂フェイクドキュメンタリーと言われるもの(らしい)。若橋呉成なる人物から送られた衝撃的なルポルタージュが、著者によって世に出されたという体裁です。読む前からあちから評判を聞くに及び、さぞ面白かろうと勝手にハードルを上げて、がっかりするという自分にとっていけないパターンに陥った作品です。
若橋呉成の『カミュの刺客』と題された原稿は、ある女性の取材から始まります。二年に渡る交渉の末、取材の承諾を得たのは七年前に心中事件を起こし生き残った新藤七緒(仮名)です。ドキュメンタリー作家 熊切敏が、秘書で不倫相手の七緒と心中を図った「熊切敏心中事件」は、当時、謎に包まれておりマスコミを賑わしていました。中でも妻で女優の永津佐和子は、殺害を疑っていたのです。
熊切を尊敬していた若橋は、熊切殺害の可能性を示唆され、七年たった今、七緒のインタビューに臨みます。心中に至るまで、そしてその後を語る七緒。若橋は、大物政治家 神湯堯による謀殺説を捨てきれません。七緒は、神湯(カミュ)の刺客だったのか。真実は、心中のあらましを記録したビデオテープに残されているのかもしれない・・・
大まかには、こういうストーリーで、若橋が、七緒、および熊切周辺のインタビューで真実を炙り出していく過程が描かれます。熊切と神湯、佐和子と七緒の意外な関係、明らかになったビデオテープの中身、そして、七緒を愛し始めた若橋は・・・
後半は、若橋と七緒の苦悩の日々が、日記風に描かれます。壊れていく七緒に、罪悪感が芽生える若橋。本作品の出だしからは想像しなかった、湿度の高い物語がつづられていきます。ここからが、本作品の見所です。若橋と七緒が決意したのは7年前の心中の再演。若橋は死の瞬間、事件の真相をはっきりと悟ります。完・・・、・・・、ん?
と思ったら、さらにどんでん返しの結末が用意されています。ここにきて猟奇的なサイコミステリー(またはホラー)と気付かされるのです。なるほど、ココが面白いのか。読み方が悪かったせいか、おっ!、さらに、おっ!とはなりませんでした。