【本の感想】島田雅彦『僕は模造人間』

島田雅彦『僕は模造人間』

島田雅彦『僕は模造人間』は、主人公 亜久間一人の精神的な彷徨を縷々つづった青春小説です。

とは言うものの、ありがちな苦悩、懊悩が吐き出されるのではなくて、独特の世界観が開陳されていきます。

亜久間一人は幼い頃から、自身を人間の模造品として位置づけ、常に他人であったと認識をしています。自分が自分であることの意義=アイデンティティを放棄しているのです。自分=他人であるから、自分の行動を制御することはありません。自分の意識は、他人としての自分を俯瞰しているにすぎないのです。亜久間一人は、誰もが所詮、他人から望まれる自分を演じていることに気付いています。

ゆえに、そういう自分をあざ笑うかのごとき行動をとり続けます。全くの他人から見れば奇矯な人物である亜久間一人。誰もが誰でもあり、誰でもないという思想と、常軌を逸した行動は、アイデンティティを拒絶しながらも、アイデンティティを確立してしまっています。

あるべき恋人、あるべき夫婦、あるべき父母 ・・・大方の人は他人からどう見られるかを基準に、自分を形づくっていくものでしょう。時に、それが本当の自分自身なのかと疑問を抱くことがあります。そして、突拍子もない行動でそんな生き方を壊してみたい欲求に駆られることもあります。ただ、それを突き崩したとしても、それはそういう破天荒な自分を他人が望むように演じているのかもしれません。

人生のもやもやをあらためて感じさせてくれる作品です(解決はしてくれないけれど)。自分の人生は誰かのパロディなのだと腹をくくると、それはそれで肩の荷が下りなくもないな。