【本の感想】オーエン・セラー『ペトログラード行封印列車』

オーエン・セラー『ペトログラード行封印列車』NO IMAGE

1981年 週刊文春ミステリーベスト10 総合 第4位。

過去のミステリーランキングを集中的に読み漁っていた時期があり、よく古書店を巡っていました。単身で長期出張していた折に、住まいの月島から遠くは町田の高原書店までと出向いたものです。

高原書店で購入したのが、オーエン・セラー(Owen Sela)『ペトログラード行封印列車』(Petrograd Consignment)(1979年)。週刊文春ミステリーベスト10が、国内部門と海外部門にわかれていなかった頃のランクイン作品です。

1917年 戦争状態であったドイツとロシアに和平を実現するため、ドイツ外務大臣ツィンマーマンは、ロシアでの革命を後押しする”ガドリーガ計画”を推進していました。ツィンマーマンの命を受け、ドイツ情報局員エーラーは、チューリッヒに亡命中のウリヤーノフ(レーニン)のロシアへの帰国を画策するのですが、折しもロシアでは2月革命が勃発しています・・・

本作品は、史実にあるレーニンの封印列車行を題材にとったエスピオナージです。

レーニンの封印列車行は、1917年にチューリッヒからペトログラード(現在のサンクトペテルブルグ)へ欧州縦断ですね。実際は大過なく進行したようですが、本作品では、その裏側でドイツ、ロシア、そしてイギリスの思惑を、虚々実々を織り交ぜて描いています。

前半までは、歴史的な背景に暗いと相当退屈ではあります(おまけに誰が主役か分からないし)。並行してこのあたりを調べつつ、読み進めていくと、後半は手に汗握る展開が待っているのです。随所に印象的なシーンが散りばめられていますが、特に良いのは、封印列車内でのエーラーと、レーニン暗殺を企むロシア秘密警察(オフラーナ)バドマエフのやり取り。共感を覚えつつも敵として雌雄を決することとなる二人の緊張感がたまりません。ラスト レーニンの演説を背景として、次の時代を見据えるスターリンの姿には思わずニヤリとさせられるでしょう。

登場人物が多く(ここは難ありと思う)、読了するのにそこそこ時間がかかりましたが、知的好奇心を満足させてくれるし、なかなかの収穫のある作品でした。硬質な内容で、好き嫌いは分かれるでしょうから、文庫にはならなかったのでしょうね。

ちなみに、思い出の高原書店は、2019年5月に閉店してしまったようです。ブックオフでは扱わないコンディションの本がリーズナブルに置いてあり、ワンダーランドだったのですが、今更ながら残念!

(注)NO IMAGE画像をクリックするとAmazonのページに移動します。