【本の感想】小林司、 東山 あかね『シャーロック・ホームズの深層心理』

小林司、 東山 あかね『シャーロック・ホームズの深層心理』(NO IMAGE)

小林司、 東山 あかね『シャーロック・ホームズの深層心理』は、精神科医で日本シャーロック・ホームズ・クラブ主宰である小林司と、妻 東山 あかねの共著です。

本書は、シャーロック・ホームズの諸作品に隠された深層心理を探るというもの。

雑誌等に掲載された小論をまとめたものらしいのですが、これゆえか一冊の本として読んだ時に、バランスを欠いているように感じます。要するに寄せ集めということ。表題「シャーロック・ホームズの深層心理」に符合する論文は、第1章と第4章であって、それ以外は、殆ど関係はありません。ホームズ所縁のスポットを巡る探訪記に頁を割いていたりします。著者のホームズ愛は良くわかるのですが、表題から読者が想像し、求めているものが違うんじゃないでしょうか。

とはいえ、第1章、第4章のホームズ、ならびにコナン・ドイルの心理を、作品からひも解いてくれるのは興味深くはあります。ここは見るべきものがあるでしょう。

「這う人」を取り上げて、これは作者自身によってでデコンストラクション(再構築)したものだと主張し、性的なものを排除してしまったドイルの無意識に着目しています。書き改めたために、辻褄が合わない箇所がでてしまったのだろうと。ここで著者は、書き直される前の原形を想像していて、これが実に良くできています。当時の世相である、切り裂きジャック事件からの影響にも言及していくのです。

著者は、「花婿失踪事件」、「ボヘミアの醜聞」「まだらの紐」も同様の試みをおこない、

偽善的なヴィクトリア朝の性道徳に妨げられて手も足も出せなかった、とこれまで考えられてきたが、手がかりをわざと残して後世の解読を期待していた

とドイルの考えを推定しています。

ホームズ物語も、悪人(エス=本能)が欲望を抱くのに対して、ホームズという超自我がそれを打ち砕く話、というふうに要約できよう。

これは、精神科医ならではの著者の分析です。「ぶな屋敷」を取り上げて、神話を絡めながら、論を展開していきます。著者が、この作品に、ドイルの抑圧された同性愛願望を見出しているのは驚きです。

「美しき自転車乗り」では、ドイルの離婚、再婚の願望を、当時の実生活と照らし合わせながらに分析しています。ドイルの精神状態によって、作品にどのような影響が見られるかを数値化しているのが興味深いですね。例えば、殺人、浮気、再婚等の作品の主題が、発表年でどの程度偏りを見せているかを表でまとめているのです。言われてみれば・・・ ぐらいの納得感だけれど。

それぞれの小論は、平易な文章で読みやすいのですが、一つのテーマとしての違和感は拭えないなぁ。

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