【本の感想】垣根涼介『ヒートアイランド』
垣根涼介『ヒートアイランド』は、現金強盗事件に巻き込まれた、渋谷のストリートギャングの活躍を描いた作品です。青春小説と言っても良いでしょう。
渋谷を根城にする「雅」は、リーダーのアキが、力と金で幾つかのチームのヘッドを束ねたストリートギャングです。タケシ、サトル、ユーイチ、ナオ、そしてアキのブレーン カオルがメンバー。彼らは、血気盛んなツワモノを集め、ファイトパーティを開いてはテラ銭を稼いでいます。
今の渋谷にチームが存在するのかは分かりませんが、一頃マスコミに持て囃された、やんちゃなコたちの日常がここにあります。主役のアキは、腕っぷしも強ければ、頭もキレ、統率力もあるという19歳。戦略家のカオルのアドバイスを得て、群雄割拠の渋谷で名を上げていきます。
So!クール!なアキとカオルですが、それぞれの家庭に対しては複雑な思いを抱いているのです。今を生きていることしか考えない(考えられない)。そんな二人のもどかしさも見て取れます。
ある日、タケシとサトルが、アキのもとへ厄介事を持ち込みます。六本木で叩きのめした男からバックを奪ったというのです。中には、何と三千二百万の現金が。ヤバイ金と睨んだアキとカオルは、その出どころを探ろうと動き始めます。
アキへ渡った金は、強盗のプロフェッショナル 柿沢、桃井、折田の三人が、広域暴力団「松谷組」の非合法カジノから強奪したものでした。引退を決意した折田が不注意から奪われたのです。柿沢と桃井は、入院中の折田の依頼を受け、金を取り戻すことを決意します。
本作品は、アキとカオルの視点、柿沢と桃井の視点でストーリーは展開します。柿沢と桃井の出会いのシーンから今に至るまでが描かれており、この二人も本作品の重要な人物です。
渋谷に乗り込みチームのメンバーを叩きのめしては「雅」そして、アキに迫ろうとする柿沢と桃井。アキとカオルは、チームのメンバーを使い、正体不明の追手を突き止めようとします。物語は、この二組の駆け引きだけではありません。アキとカオルは、麻川組 黒木からファイトパーティの利権と松谷組から強奪した金を要求されているのです。一方、柿沢と桃井にも、松谷組幹部久間を筆頭に組員らの追跡が続いています。
ついに、柿沢と桃井に居所をつかまれたアキ。激しさを増す黒木からの要求に、アキは、双方を一網打尽にする計画を作り上げます。ここからは、怒涛のクライマックスへ突入です。アキとカオルが練り上げた作戦に、「雅」、そしてそれぞれの配下のチームのメンバーが、一致団結して取り組みます。アキの体を張った戦いは勝利を収めることができるのか!(本作品は、シリーズ化されているので、勝利は収めるのですが・・・)。思わぬ事態も発生し、痛快度が一気にあがります。・・・しかしながら、ドン・ウィンズロウ『ボビーZの気怠く優雅な人生』のクライマックスに似ていなくもありません。
ラストは、アキの今後の生き方を方向付けます。そして、『ギャングスタ―・レッスン』へと続くのです。
本作品が原作の、2007年公開 城田優、木村了、北川景子 出演『ヒートアイランド』はこちら。
出演者が、それほど演技が上手くなかった頃の作品ですね。ラテン系の組織を絡ませるなど原作より絶体絶命度が増しています。その割に緊張感が希薄というか・・・。ナオは、映画版では原作と異なり女子(北川景子)です。銃と車の男っぽい小説が、違う雰囲気になってしまいました。渋谷系ってこと?