【本の感想】笹倉明『漂流裁判』

笹倉明『漂流裁判』

1988年 第6回 サントリーミステリ大賞受賞作。
1988年 週刊文春ミステリーベスト10 国内部門 第5位。

笹倉明『漂流裁判』は、法廷ミステリです。

強姦致傷および強姦罪で一審判決 有罪となった被告 紺野喜一。紺野の弁護人となった深見耕介は、控訴審に臨むも二転三転す原告 中山知子の証言に翻弄されます。裁判の焦点は、和姦であるのか、強姦であるのか、そして強姦致傷に該当するのか。

過去に同様の罪で前科のある紺野。圧倒的に不利な闘いの中、深見は、地道に関係者の証言を集めていきます。やがて、中山には交際していた男性のいることが判明し・・・

無罪を主張する被告側と、有罪を主張する原告側の真っ向勝負であり、裁判が進むにつれて、被告、原告の人間性が明らかになるという展開です。徐々に体調を崩していく紺野。破綻しているともいえる証言を繰り返しながら、意気軒昂な中山。敏腕女性検事の激しい追及に、証拠を積み重ねがら対抗する深見。紺野、中山の関係者のそれぞれの思惑が絡み合って、盛り上がりを見せます。

紺野と中山の意外な過去が明らかになると、二人の関係は違ったもののように映り始めます。紺野は、ただ粗暴なだけの前科ものなのか。中山は、本当に清廉潔白な女子大生であるのか。

本作品は、派手な殺人事件を扱ったミステリではありません。よくある事件の裏側から、人間の心の襞に分け入っていくタイプのドラマなのです・・・と、考えると、中山の掘り下げ方が、物足りないように思います。また、裁判を離れたところで、深見と中山が酒を酌み交わすシーンも、いただけません。深見が何をしたいのか読んでいる方が混乱するでしょう。

判決が出た後、深見には衝撃的な事実が判明するのですが、これはパワー不足が否めません。もやもやを残したまま読了したのでした。