【本の感想】リチャード・リーニィ『殺人症候群』
『殺人症候群』(The Walter Syndrome)(1970年)は、『心ひきさかれて』で見事なFinishing Stroke(最後の一撃)を決めてくれたリチャード・ニーリィ(Richard Neely)の作品です。本作品も、同様に、どんでん返しのあるサイコ・ミステリーです。
本作品の主人公は、広告勧誘員の冴えない男ランバート・ポスト、そして、押し出しの強いリチャード・ウォルターの二人です。ランバートは、鬱勃とした内向的な男で、一方、リチャードの自己顕示欲の塊のような男。この、対照的な二人を結びつけるのは、”女性への憎悪”という絆です。
ランバートが侮辱を受けると、リチャードが復讐を実行するというのが、二人の友情の証。ちょっと、ドラ○もんを思い出してしまいます。読み進めると、二人の関係性が実に巧妙に描かれていることに気付くでしょう。
ランバートのからかいの報復として始まった、リチャードのタチの悪いイタズラが、徐々に連続殺人へとエスカレートしていきます。女性からの屈辱的な扱いによって発火する暴力装置が、ストーリーの重要な鍵となっているのです。この沸騰する憎悪の描写は、お見事!
異常心理を表現する手段として、随所に、猟奇的な場面が挿入されています。際立っていないのですが、苦手な読者はいるでしょう。作品そのものを損なうわけではないので、ここは目を瞑って頂きたく。
ランバート、リチャード、そして事件を追う記者モーリー・ライアンと、物語は、各章毎に多視点で展開します。これが、ストーリーそのもにに深みを与えると共に、どんでん返しのための有効な仕掛けになっているようです。ただし、オチは、今や、禁じ手になっているサイコ・ミステリーの定番そのものでしょう。本作品は、1970年発表の作品で、以降、似たような作品が量産されたように思います。
真相が途中で分かってしまうので、興味の中心は、きちんと伏線を張っているのかどうかと、後始末をどうするか、です。これについては、文句はありません。余韻を残す終わり方にも、満足しています。衝撃という点では、『心ひきさかれて』には遠く及ばないのですが。