【本の感想】シーリア・フレムリン『夜明け前の時』

シーリア・フレムリン『夜明け前の時』

1960年 エドガー賞 長編賞受賞作。

シーリア・フレムリン(Celia Fremlin)『夜明け前のとき』(The Hours Before Dawn)は、子育てに追われる主婦に迫る悪意を描いた作品です。

主婦のありふれた日常をサスペンスに仕立てていますが、ハラハラドキドキを感じることはありません。エスピオナージや殺人事件を扱ったミステリが目立つエドガー賞受賞作の中においては、本作品はとても地味です。

ルイーズ・ヘンダースンは、夫マーク、長女マージェリー(8歳)、次女ハリエット(6歳)、長男マイケル(7ヵ月)の5人家族。子育てに疲れ、寝不足の日々を送っています。

言うことを聞かない子供たち、子育てに協力的ではない夫、勝手な姑、図々しいママ友、隣家からのクレームと、ルイーズは悪戦苦闘の毎日です。現在でもよく目にする光景で、Noと言えない女性のテンパリ具合が実にリアルに描かれています。

そんなルイーズ一家に間借り人として、古典教師 ヴェラ・ブランドンがやってきます。マークとブランドンは文学趣味で意気投合するものの、ルイーズはブランドンに釈然としないものを感じます。苦労の上に、苦労を積み上げるルイーズ。悪夢に苛まれ、意識は朦朧となり・・・と、壊れかけた心理状態が活写されます。更に、マークの心無い一言で、ルイーズは疑心暗鬼になっていくのです。

ブランドンの怪しい行動が目に付き、気になり始めたルイーズ。持ち物がないのは何故?家の中を物色しているのでは?出かけてる振りをして自室いるのでは?そして、ルイーズは、ブランドンを調べようと決意します。

ブランドンの正体に手掛かりを掴み始めたルイーズ。しかし、この行動は、マークには奇異に映り、ついには罵声を浴びてしまいます。精神が崩壊しつつあるルイーズは、夢うつつのままマイケルを連れて夜中に徘徊するようになって・・・。マイケルを潜在的に亡きものしようとしているのでは、と自分自身すら信用できないルイーズ。ブランドンの悪意が働いているのか、読者は判然としなくなるでしょう。ブランドンは、本当は善意の第三者なのか・・・と。

クライマックスは、ルイーズの執念の探索行が実を結びます。ブランドンの狙いが判明し、事態は急変するのです。明らかになるブランドンの過去。そして、その時、ルイーズは・・・

タイトルの「夜明け前の時」は、子供をあやしてまんじりともしないまま、夜明けの時を迎えた情景を表しています。本作品は、ざっくりいうと、日々に疲れ果て、子育てを放棄したいと思い悩む主婦が、一つの事件から気付きを得るという物語です。子育てが大変な主婦は、皆で応援してあげようね!っていう教訓でしょうか(違うか・・・違うな)。途中から真相は予測が付くのですが、ブランドンの悪党感が希薄で、盛り上がりに欠けてしまいます。エドガー賞ねぇ・・・