【本の感想】西東登『蟻の木の下で』

西東登『蟻の木の下で』

1964年 第10回 江戸川乱歩賞受賞作品。

西東登『蟻の木下で』は、ひとつの死体発見が時空を超えた因縁話へと広がりを見せるミステリです。

井之頭公園内にある動物園の、羆の檻の前で、男の惨殺死体が発見されました。捜査当局は、掻き切られたような傷跡から、羆の仕業であるとの見解を示します。事件は解決にみえたのですが、新聞記者の鹿子は、檻の付近に落ちていた新興宗教団体のバッチに興味を持ち、因果関係を探ろうとするのでした・・・

宗教団体の成り立ちを追ううちに、物語は、大戦時タイでの陰惨な出来事や、今時点の貿易にまつわる死亡事故が絡み合って複雑な様相を呈していきます。

本作品は、いくつかの犯罪が折り重なっていながら、元凶は一つに収斂していきます。自分の好みのプロットではあるのですが、どうにも詰め込み過ぎにのように感じます。そもそも、事件の鍵として、宗教団体を取り上げた理由が分かりません。当時の世相を、反映しているのでしょうか。

「蟻の木の下で」というタイトルの意味こそ、事件の核心であるのは自明です。ところが、周辺にばら撒かれた事物を、殊更に掘り下げてしまったゆえに、読み難さを残してしまっているようです。事件は連続殺人へと発展するのですが、最後の事件で、解決できていない謎が放置されてしまっているので、スッキリとはいきません。

本作品には、名探偵は存在しないため、事件の結末は手紙というかたちで提示されます。時と場所を超え、今明らかになるのは、「蟻の木の下」の悲しい因縁です。物語の幹の部分は良いので、枝葉末節へととっちらかった感が残念です。