【本の感想】藤村正太『孤独なアスファルト』

藤村正太『孤独なアスファルト』

1963年 第9回 江戸川乱歩賞受賞作。

藤村正太『孤独なアスファルト』は、地方出身者の孤独を描いたミステリです。

田代省吾は地方から上京し、夜学に通いながら日東グラスウールの工場で働いていました。都会への希望に溢れていた田代でしたが、単調な作業に辟易し、より大きな企業への就職を夢見るようになります。夜学から大企業への就職の門戸が開けかけたとき、日東グラスウールの常務 郷司の横槍で全てご破算になってしまうのでした。

憎しみに駆られる田代。

程なくして、郷司の他殺死体が見つかります。警察は、田代の殺意の確証を得て、容疑者としてマークするようになります・・・

田代は、福島県郡山出身で、なまりが抜けないことから都会の中で孤独を味わっています。地方との格差があまりなくなった昨今では、この設定そのものが時代を感じさせざるを得ません。

孤独にさいなまれたあげく、殺人事件の容疑者として周囲から白い眼で見られる田代。この鬱屈した状況が、ラストに効いてくるのです。

作品そのものは、刑事たちの丹念な捜査により、真犯人のアリバイ崩していくタイプのミステリであす。そこに、昭和38年の世相を上手く取り込んだということになるでしょうか。大都会の冷え切った人間関係を、地方出身者の眼を通して切り取っているのです。

事件の背景には、親子愛が垣間見えます。その愛情は、他者を犠牲にすることによって成り立つという冷徹さがあります。全てが終わったときの田代のつぶやきは、空のない街で夢を追いかけた若者の苦渋が滲み出ています。

残念ながら、今となっては、読者がある程度の年代ではないと、共感を覚えるのは難しいかもしれませんね。自分も、本作品の田代と同様、就職で地方から東京へと出たので、彼の孤独には共感することはできました。