【本の感想】河野典生『殺意という名の家畜』
1964年 第17回 日本推理作家協会賞受賞作。
初めて読んだ河野典生作品は、『アガサ・クリスティ殺人事件』でした。『オリエント急行殺人事件』のパスティシュで、軽いコメディタッチだったように記憶しています。
以降、他の作品を手に取る機会はなかったのですが、ゆっくり読み続けている日本推理作家協会賞全集にて、再び河野作品に出会うこととなりました。
『殺意という名の家畜』を読んで、まず、『アガサ・クリスティ殺人事件』とタッチがまるで違うのに驚きます。調べてみると、著者は、大藪春彦さんと双璧をなす日本ハードボイルドの草分け的な存在とのことです。なるほど、本作品の方が、著者のお家芸になるのですね。
犯罪小説家の私(岡田晨一)のもとへ、深夜、掛かってきた電話。2年程前の一夜限りの情事の相手、星村美智子からでした。美智子は、すぐに会って欲しいと言います。断りを入れた私は、やがて美智子が消息を絶ったことを知り・・・
ストーリーは、岡田が、女性からの電話をあっさりと退けてしまうシーンから始まります。岡田は20代の設定ですが、なんともストイック。自分が20代頃であれば、(下心に突き動かされて)一目散に駆けつけたでしょう。ハードボイルドにはストイックさが必要とはいえ、冒頭から、どうにもこの主役とそりが合いません。
相手の感情を慮ることのない、ズケズケと畳み掛けるような物言いも、癇に障ってしまいます。主役が気に入らないと、作品自体へのめり込み難くなるようです。
美智子を慕う永津博の訪問をきっかけに、探偵役を引き受けた私。周辺を探るうちに、美智子の分不相応な暮らしが明らかになります。やがて、高松で美智子と思しき、焼死体が発見されるのでした。車の中で、男と無理心中をしたようです。
その男は、美智子への暴行事件の犯人であり、刑期を終えたばかりです。警察は自殺と断定するのですが、腑に落ちない私は、美智子の過去を追って四国へ向かいます・・・
美智子と関係を持ったアパートの隣人の死、同時期に行方不明になった近所の若い娘、何者かに襲われる私、と謎が謎を呼びストーリーを盛り上げます。美智子は、深夜、私に何を伝えようとしたのか。なぜ、美智子は、過去に自分を暴行した犯人と死なねばならなかったのか。
読了してみれば、驚きの結末とまではいきませんが、日本ハードボイルドの黎明期を象徴するようなキレキレのタッチには、感慨深いものがあります。
哀愁漂うラストは、So クール!
ハードボイルド好きには、その歴史を紐解く上でも一読の価値はあるでしょう。半世紀以上も前の作品であっても古さは感じないのは良いのだけれど、やっぱり、ズケズケとして悪びれない俺様キャラがどうしても好きになれず・・・