【本の感想】クライヴ・バーカー『不滅の愛』

クライヴ・バーカー『不滅の愛』(原著)

連邦郵便局員のジェフィは、同僚に強要され、配達不明先の手紙をくすねる日々を送っていました。ある日、大量の手紙に取り組むうちジェフィは、それらの断片に、別世界、世界の始まりと終わり、”アート”についての物語が隠されていることに気付きます ・・・

クライヴ・バーカー(Clive Barker)『不滅の愛』(The Great and Secret Show)(1989年)は、圧巻のイマジネーションでつづられた異世界ダークファンタジーです。翻訳文庫版上下巻1,000頁ボリュームに、読む前から慄いてしまいます。

上巻は、生と死と愛の三度だけ行けるという、異世界(海=クィディティ、島=エフェメリス)を我が物にしようとするジェフィと、それを阻止しようとする麻薬中毒の天才科学者フレッチャーのつばぜり合いに終始します。フレッチャーの完成させたナンシオで、人ではなくなった二人が争いを続け、ついに硬直状態に陥ったとき、それぞれの意思を継ぐものとして協力者を創り出していきます。

ジェフィとフレッチャーは、善と悪、光と影のような明らかな対立軸を明確化されているのではなくて、異世界を奪うもの、守るものとして描かれています。ジェフの軍団<テラタ>、対、フレッチャーの生み出す空想の兵士達<ハルシゲニア>。この対決は、当然のことながらアルマゲドンを彷彿させます。本作品は、この異世界の存在そのものが謎であり、加えて”アート”や”ショール”といった文中に頻出する用語の説明がなされていません。もどかしくもありますが、全てが明らかになった時の快感を得るため、ひたすら読み進めます。

上巻のラストで、フレッチャーは消滅し、意外な人物が後継者となります。これは、かなり予想外です。下巻に向けて、本来敵同志であるべき二人の力によってなした子ら(生物学的な子ではない)の運命も気になるところ。それ以外のサブキャラクター達の運命は・・・

冗長とも思える長い長い物語であるだけに、息切れせずに読み切れるかが、この作品の評価を分けてしまいそうです。

下巻は、いよいよ異世界の謎が解き明かされます。クイディテイを超えて現実世界に破壊をもたらすイアド・ウロボロス。その存在を、封印することができるのかという展開です。

著者の描くクィディティやエフェメリス、イアドの、奔流するが如くのイメージは、本作品を読んだものにしか味わえません。圧倒されるとはこのことです。さすが、幻視者バーカー。

・・・しかしながら、ストーリが遅々として進まず、寄り道が多くて飽きがきます。登場人物の役割が明確ではないので感情移入が難しく、モチベーションもダウン気味。かなりバタバタと決着を付け方てしまったので、結局、何が言いたかったのかと疑問だけが残ってしまいました。なるほど、続く・・・ってことですね。上巻が良かっただけに、かえって下巻は落差が大きく期待ハズレです。これまた長編の『イマジカ』も途中でダレちゃったんだよなぁ・・・(リンクをクリックいただけると感想のページに移動します

本作品は、Books of the Artというシリーズ三部作ですが、続編『Everville』(1994年)は、翻訳されていません。そして、何と第三弾は、本国で出版されてもいない・・・

(注)読了したのは角川文庫の翻訳版『不滅の愛』で、 書影は原著のものを載せています 。

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