【本の感想】アンドレアス・グルーバー『夏を殺す少女』

アンドレアス・グルーバー『夏を殺す少女』

アンドレアス・グルーバー(Andreas Gruber)『夏を殺す少女』(Rachesommer )(2010年)は、ドイツ語圏のミステリです

しかしながら、人名、地名を除くと、英米の翻訳ミステリと言われても違和感がありません。国境を超えて広く読まれるには良いのだろうけれど、読みやすい反面、”らしさ”を求めるのなら物足りなさを感じるかもしれません。

主人公は、オーストリアの女性弁護士エヴリーンとドイツの刑事ヴァルター。プラハを挟んで対象の位置にある二つの都市ウィーンとライプニッツが物語の始まりです。

法律事務所に務めるエヴリーンは、名士の事故死を調査するうち、一人の少女に行き当たります。その少女は、別の死亡事故でも目撃されていたのです。エヴリーンは、上司の制止を振り切り、関連する事件の解明にのめり込んでいきます。

一方、ヴァルターは、精神病棟に入院中の少女の自殺に不審を抱いていました。執拗な捜査の結果、それが連続殺人の可能性があることを突き止めます。しかし、ヴァルターは捜査から手を引くよう命令を受けてしまうのです。ヴァルターは組織から離れ単独で捜査を続けます ・・・

ストーリーは、エヴリーン、ヴァルターそれぞれの捜査を軸に展開します(二人のタフな行動力を見よ!)。エヴリーンに時折フラッシュバックする暗い過去。ヴァルターの、亡き妻、そしてひとり父の帰りを待つ娘への思い。正義を貫こうとする二人の胸の内が、キャラクターに厚みを与えています。

別の都市で起きた事件を追う、見知らぬ二人。一方の事件は、少女による連続殺人、一方の事件は、少年少女を狙う連続殺人です。二つの事件がどう絡み合っていくのか興味深々。これが読者を引っ張っていくでしょう。エヴリーンとヴァルターが北ドイツで出会うシーンは、待ってました!なのです。

ただ、そこまでの盛り上がりをラストまで維持できるかというと難くはあります。極端に失速するわけではないけれど、謎が大きかっただけに多少の脱力感は否めません。

エヴリーンに思いを寄せる私立探偵パトリックや、ヴァルターを蔑むクラウス刑事がもっとストーリーをかき回してくれたらとは思います。エヴリーンとヴァルターそれぞれの再生の物語と見ることもできるし、良作であることは確かなので、それは贅沢かなぁ。