【本の感想】高野秀行『極楽タイ暮らし―「微笑みの国」のとんでもないヒミツ』

高野秀行『極楽タイ暮らし―「微笑みの国」のとんでもないヒミツ』

高野秀行『極楽タイ暮らし―「微笑みの国」のとんでもないヒミツ』は、タイを愛してやまない著者が、タイ人の気質を考えてみるというものです。

「タイ人の素の素」を表すサバーイ(元気だ、気楽だ、快適だ)、サヌアック(楽しい)、サドゥアック(便利だ、都合がいい)、マインペライ(大丈夫、たいしたことあい)の言葉をとって四章で構成されています。

気楽に読めるエッセイでありながら、驚き、共感、感銘といった気持ちが湧き起こります。タイ人の国民性を鏡像として日本人を見つめ直すきっかけになるでしょう。

移り気で執着心がなく、男らしさとは無縁。主張なし、論理的思考なし。王様は敬うけれど、愛国心を持ち合わせない。死者に対して淡白なわりに、無闇に霊を怖がる。モチベーションの欠如と成りゆきまかせという精神的貴族。無関心からうまれる無償の親切等々。

こう書いてしまうと悪口雑言のように見えるけれど、タイ人のユルさ加減は感動ものです。人間の本質ってこうなのかな(いや、これでもいいのかな)、と思ったりして。富裕層が中国系に占められているわけ、タイ女性の美脚が多いわけ といった発見もあります。

随分前に出版された本なので、著者があとがきに述べているように、現在のタイとは様相が違ってきているのでしょう。その後のタイをエッセイとして読んでみたいですね。

自分の人生を通して、外国に触れ合う機会はどれくらいあるだろう、と思うことがあります。ちょっとした海外旅行にいったとしても、その国、そこで暮らす人々を真に理解したことになりません。せいぜい仕事を通じて、考え方の違いを認識する程度です。ウルルン系の旅番組を見ていて、羨望とともに、軽い嫉妬を感じてしまうこともしばしば。

本書のようなエッセイは、著者のフィルタがかかっているとしても、自分に未知の世界を覗かせてくます。(おそらく)出かけることはないだろう夢の旅のガイドブックとなっているのです。