【本の感想】ロス・トーマス『神が忘れた町』
1990年 週刊文春ミステリーベスト10 海外部門 第3位。
初めてのロス・トーマス(Ross Thomas)の作品、『神が忘れた町』(The Fourth Durango)(1990年)は、設定の妙、そして会話の妙が印象的です。
舞台は、人口9千人のカリフォルニア州ドゥランゴ。神の忘れたまいし町。そこでは、逃亡者を匿うことで報償を得、市政の運営を賄っていました。本作品の設定には、なかなかお目にかかれない独創性があります。ドゥランゴは架空の町とのことですが、冒頭から、この魅惑の物語世界へ引き込まれることでしょう。
ドゥランゴの女性市長B・D・ハンギスと警察署長シド・フォークは、20年前に、この町に辿り着いた流れ者の恋人同士。彼らに庇護を要請したのは、収賄の罪で15ヵ月刑務所に収監された元最高裁判事ジャック・アデア。そして、弁護士資格を剥奪されたアデアの娘婿ケリー・ヴァインズ。アデアの命には、2万ドルの賞金が懸けられていました。ちょっと入り組んだ設定ですが、無駄のない筆致のおかげで混乱することはありません。これらの状況がすんなりと頭の中に入ってきます。
アデアの収監後、息子ポールは、不可解な死を遂げ、娘(ヴァインズの妻) ダニーは、精神を病んでしまっています。ここもまた、読者の興味をそそる味付けです。
アデアとヴァインズが、彼らの庇護者に出した要求。それは、町が、自分たちを100万ドルで売る、という噂を広めること。さて、アデアらの目的は、何なのか・・・ とストーリーは、進んでいきます。う~ん。一気に読ませる力を持っていますね。
どうやら、ロス・トーマスという作家は、セリフが高く評価されているようです。なるほど、本作品においてもここは見所です。海外ものにありがちな、ジョークを乱発したり、嫌味なほど気取ったものいいは見られません(これも嫌いじゃないのですが)。会話が、登場人物たちの個性を際立たせるために、効果的に使われています。特に、場面が展開する寸前のセリフがキマっているのです。キレ味は、抜群でしょう。
自分は、ひたすら著者の技に感服し、のめり込んでしまいました。他の作品も、読んでみたくなります。
設定の妙、そして会話の妙。更に付け加えるなら、日本語タイトルの妙。原題『The Fourth Durango』より断然良いです。
(注)読了したのはミステリアス・プレス文庫の翻訳版『神が忘れた町』で、 書影は原著のものを載せています 。